不随意運動 movement disorder 鑑別


[Movement Disorder 不随意運動]
1. 振戦 tremor
規則的で単純な反復運動で、主動筋と拮抗筋の反復的な(reciprocal)不随意運動。
(1) 静止時振戦
(2) 姿勢時振戦
(3) 動作時振戦:目標に近づくほど振戦が大きくなるものを企図振戦
に分けられる。
・振戦をきたす疾患
(1) 本態性振戦(Essential Tremor : ET)
姿勢時振戦、動作時振戦を主体とする。4-12Hzと幅広い。
孤発性と家族性に分けられか属性は常染色体優性遺伝である。
明確な機序は不明だが小脳-視床系が関与しているとされる。
パーキンソン病へ移行する症例も認められる。
(2) パーキンソン病
静止時を主体とする4-6Hzの振戦。
姿勢時振戦は通常認めないが同じ姿勢を続けると振戦が出現(re-emergent
これは同じ姿勢を続けると静止時となるためとされる。
機序として大脳基底核と小脳路が関与するとされる
(3) 小脳性振戦
2-5HzHzの企図振戦が主体の動作時新鮮
(4) Holmes振戦
脳幹-小脳由来の振戦で3Hz前後の振戦が静止時、動作時、姿勢時に出現
責任病巣として小脳核、下オリーブ核、赤核、上小脳脚が重要
(5) ジストニアに伴う振戦:4-8Hzの動作時、姿勢時振戦
(6)末梢神経障害に伴う振戦
ニューロパチーの罹患部に生じる動作時、姿勢時の振戦

2. 舞踏運動 (Chorea)
比較的早い四肢遠位部にみられる不随意運動
動きのパターンは不規則で顔をしかめたり手足を伸展、屈曲、回旋させる
精神的ストレスや随意運動で増悪し、安静や睡眠で軽減、消失する
大脳基底核経路のうち間接路の障害で生じうる
Choreaをきたす疾患
(1). Huntington舞踏病:AD遺伝で舞踏運動、認知症、精神症状をきたす
(2). DRPLA
(3). SCA17
(4).脳血管障害
(5). Wilson
(6).薬剤性(高パーキンソン病薬、抗精神病薬、抗てんかん薬など)
基本的には抗精神病薬が有効である。
第一選択はベナジン(コレアジン)
そのほか、ハロペリドールやDZPなど

3. アテトーゼ (athetosis)
連続する緩徐なねじれる不随意運動で四肢、体幹、顔に見られる。
明確なメカニズムは不明だが、大脳基底核の障害とされる
・アテトーゼをきたす疾患は
(1). 脳性麻痺, 核黄疸
(2). Wilson
(3).レッシュ・ナイハン病
(4).DRPLA
(5).脳血管障害(対側の被殻梗塞、視床梗塞)
(6).発作性ジスキネジア

4. バリズム(ballism)
四肢近位筋の反復するが変化する運動
責任病巣は対側の視床下核(STN)であり、線条体や視床が関与する
PDにおけるDBSではSTNがターゲットとなるがballismは来しにくい
これは神経発火パターンが正常と異なるためとされる
・バリズムをきたす疾患
(1)脳血管障害や脳腫瘍
(2)SLEAPS, SScなどの自己免疫疾患
(3)薬剤性(L-dopa, 抗てんかん薬, 経口避妊薬)

5. ジスキネジア(dyskinesia)
元々は振戦、アテトーゼ、Chorea以外の不随意運動全ての総称
その後、チック、バリズムが独立した概念となった。
現在もdyskinesiaは概念であり具体的な運動は示さない
(1)薬剤性ジスキネジア
・抗精神病薬:遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia)
・抗パーキンソン病薬:治療行きをoverしたdopaにより生じる
・老人性口部ジスキネジア:口をもぐもぐする運動。線条体の微小梗塞が原因。

6. ジストニア(dystonia)
持続性の筋収縮を呈する症候群であり、しばしば捻転性あるいは反復性の運動や異常な姿勢を来す。定型性(stereotypy), 動作特異性(task specificity), 感覚トリック(sensory trick), オーバーフロー(overflow), 早朝効果(morning benefit), 共収縮(co-contraction)などを特徴とする。
(1)一次性ジストニア:ジストニアを唯一の症状とする疾患
(2)ジストニアプラス症候群:ジストニア+パーキンソニズムorミオクローヌス
(3)二次性ジストニア:基礎疾患に起因するジストニア
(4)遺伝性神経変性疾患に伴うジストニア
(5)ジストニアを伴う他のジスキネジア症候群
(6)偽性ジストニア:外傷や心因性、てんかんなどによる骨、関節、筋の異常
DYTジストニア
遺伝子が判明している遺伝性ジストニア
ADの一次性ジストニア:1.4.6.7.13.18.21.23.24.25
ARの一次性ジストニア:2.17
ADのジストニアプラス:5.11.12.15
ARのジストニアプラス:5.16.
XRのジストニアプラス:3
ADの発作性ジストニア:8.9.10.19.20
このうちDYT5は瀬川病と言われ、dopa反応性のジストニアとしてPDの鑑別疾患として挙げられる

7.ミオクローヌス
突然の電撃的な、四肢や顔面、体幹に生じる意識消失を伴わない不随意運動。
主動筋と拮抗筋が不随意に同時収縮するものを陽性ミオクローヌス、筋収縮が不随意に停止するものを陰性ミオクローヌスという。
ミオクローヌスの起源により(1)皮質性, (2)皮質下性, (3)脊髄に分けられる。
皮質性ミオクローヌスの特徴として刺激により誘発、増強されることが多い。
CJDSSPE, 良性成人性家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME), 進行性ミオクローヌスてんかん(PME)では特徴的な脳波所見を呈する。
陰性ミオクローヌスは肝性脳症などの代謝性脳症で認められる。
陽性と陰性が混在するものとしてTransient myoclonus state with asterixis(TMA)がある。
  ミオクローヌスとミオクロニーの違い
ミオクローヌス:不随意運動の一つ。意識消失はないことがほとんど。
ミオクロニー:てんかんの一つ。意識消失を伴うことがある。

8.羽ばたき振戦 (flapping tremor=asterixis=negative myoclonus)
筋放電の中断によって生じる不随意運動を陰性ミオクローヌスと総称し、その中でも両側性に生じて代謝性脳症と関連した病態をasterixisと呼ぶことが多い。
Asterixisをきたす疾患として頻度が高いものは代謝性脳症(肝性脳症やWilson病、尿毒症や電解質異常など)、抗てんかん薬などの薬剤、TMAがある。
明確な病態は不明だが視床-大脳皮質間の機能異常が原因とされる。

9.チック(tic disorder)
突発的で素早く律動的ではないが反復して生じる運動または音。
本態性のチックをトウレット(Tourette)症候群という。
症候性チックはHuntington病やWilson病、脳炎/脳症、薬剤(抗精神病薬や麻薬など)、中毒、発達障害、脳血管障害などで生じる。皮質-基底核でのドパミンの過剰ないしはGABAの減少が原因とされる。ドパミン受容体拮抗薬が有効。
  Tourette症候群
本態性の病態で複数の運動チックと音声チックが経過中に存在し、チックの出現頻度は時間とともに変化し出現、消失を繰り返すが、初発から1年以上は経過するもの。90%以上に強迫性障害(OCD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)の合併を伴う。

10. カタトニア
無言症、昏迷、常同症、姿勢保持、カタプレシー、命令自動、反響現象など、体の動きが止まったり、命令に対する拒絶が見られる症候。主として精神疾患(統合失調症)などで認められるが、基底核変性疾患や脳炎などでも見られることがある。

11. 強制泣き笑い(pathological crying and laughing)
各種変性疾患や認知機能障害、脳炎、脳症などで非特異的に生じる。
特に認知症や偽性球麻痺、前頭葉徴候に伴うことが多い。
明確な機序は不明であるが、一定の刺激により視床背前核や視床内側核が賦活されニューロンに内在している長期記憶が認識されることにより生じるとされる。

12. 痛む脚と動く足趾症候群(PLMT)
足に痛みがあり非律動的に繰り返される足趾の不随意運動を特徴とする。
中年に多く発症し女性にやや多い。原因は末梢神経障害が最も多く、脊髄や馬尾の損傷などが挙げられる。しかし、末梢神経障害や脊髄症の頻度に比べてPLMTは稀でありそのほかの機序が関与すると考えられる。sEMGではreciprocalである。

13. 胸像運動(mirror movement)
一束の随意運動に類似した対側相同筋の意図しない不随意運動。
生理的なMMは幼少期に認められるが、明らかなMMが成人でも見られる場合は病的である。先天性疾患に関連するMMとしてKlippel-Feil syndrome, X-linked Kallmann症候群などがあり、後天性疾患ではPD, CBS, ALSなどで見られる。皮質内抑制や一部半球間抑制の機能障害により随意運動と同側の一次運動野から意図しない運動出力が駆動し、交差性皮質脊髄路を介してMMが出現する。

14. 驚愕反射(hyperekplexia)
脳幹起源の反射の亢進によって生じる。
本態性のものの他、脳幹の血管障害や低酸素脳症、MSなどで生じる。

15. 口蓋ミオクローヌス(palatal myoclonus)
軟口蓋および咽頭筋の2-3Hzの持続性に出現する不随意運動で口蓋振戦とも呼ばれる。歯状核-赤核-下オリーブ核を結んでできるギラン-モラレの三角上病変で生じる。

16. 繊維束性収縮(fasciculation)
関節運動を伴わない不規則かつ不随意な単一の運動単位に属する筋収縮
末梢神経の障害と再支配により末梢神経刺激性の興奮と単一神経支配筋の増加による。ALSSBMAIsaacs症候群などで見られる。

17. ミオキミア(myokimia)
持続性の震えるような、あるいは波打つような不随意な筋の動き
繊維速成収縮と同じく末梢神経の過剰興奮により生じる
Isaacs症候群やGBS、甲状腺機能亢進症、尿毒症などで見られる。

18. ニューロミオトニア(neuromyotonia)
臨床的に筋のさざ波のような動きや硬直を示す持続性筋繊維活動
ミオキミアと類似する徴候
grip myotoniaは見られる
筋原性のミオトニアと異なりpercussion myotoniaは見られない
nEMGでは高頻度(150-300Hz)で発火する自発活動であり振幅の増減はなく次第に低下して終了する

19. テタニー
手指や足趾に見られるきんの引きつりや筋痙攣で中枢および末梢神経の過敏性が主病態。アルカローシスや局所の虚血で増強する(Trousseau sign)
通常低カルシウム血症や低マグネシウム血症により生じる。
末梢の異常感覚で始まり、次第に近位部へと広がるとともに繊維束性収縮が始まり、最終的には筋痙攣をきたす。顔面神経幹を叩打して起こる鼻翼、眼瞼、広角の反復性筋収縮をChvostek徴候という。

20.筋痙攣(muscle cramp)
不随意で疼痛を伴う筋強直。末梢神経を起源とする報告が多いが詳細は明らかではない。

21.筋強直(myotonia)
筋原性に筋の随意収縮や叩打による筋収縮後に筋弛緩が遅延する現象。
Grip myotoniapercussion myotoniaなどが知られる。
nEMGでは単一の筋活動電位の反復発火として見られ、針の刺入時や叩打により誘発され急降下爆撃音と言われる。
筋繊維膜の異常興奮が原因とされる。
筋強直性ジストロフィーとnondystrophic myotoniaで見られる。

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