DBS(脳深部刺激療法)のまとめ ガイドライン

【脳深部刺激療法 (deep brain stimulation : DBS)
1947年にSpiegelWycisによりヒト用の定位脳手術装置が開発され、PD患者に対する淡蒼球破壊術(pallidotomy)が行われた

1993年にフランスの脳神経外科医Benabidらのグループは、STNに対して脳破壊を必要とせずより安全性の高い脳深部刺激療法(deep brain stimulation : DBS)を行い大きな成果をあげた。
(Pollo C. Brain 137:2015-2026, 2014)

[dopamine神経系(黒質線条体系)]

興奮性の神経伝達物質はGlu
抑制性の神経伝達物質はGABA

PDでは黒質のドパミンニューロンの変性によりVL(視床)から皮質への刺激が低下し、Motor outputが減少する。

[DBSの機序]
過剰に興奮したSTNGPiの抑制によるとされている。
(Williams A, Lancet Neurol 2010; 9:581-591)

脳内に留置した電極からの電気刺激により,大脳基底核における神経回路網の機能的異常を制御することを目的とする。

STNの高頻度刺激はSTNニューロンの発火頻度を低下させる
(Welter ML. Arch Neurol 61:89-96, 2004)

GPiの高頻度刺激はGPiニューロンの発火頻度を低下させる
(Dostrovsky JO. J Neurophy- siol 84:570-574, 2000)

しかし、STNの高頻度刺激はGPiの発火頻度を増加させた
(Hashimoto T. J Neurosci 23:1916- 1923, 2003)

STN刺激はSTN破壊と異なり、GPiにおけるグルタミン酸レベルを増加させることが示されている
(Stefani A. Ann Neurol 57:448-452, 2005)

STN 刺激でGPiの血流が増加することが示されている
(Hershey T. Neurology 61:816-821, 2003)

DBSPDの病態における何らかの病的な発火パターンを打ち消して、正常な発火パターンに置き換えることで効果を発揮していると考えられる

DBSは刺激部ニューロンに対する局所的な直接的効果だけでなく、シナプス,アクソン,グリアなどの周辺構造にも影響を及ぼし、基底核-視床-大脳皮質回路の広い範囲における興奮・抑制のアンバランスを是正していると考えられる
(Umemura J. No Shinkei Geka; 45(1): 5-14. 2017)

[適応]
適応疾患:PD, dystonia, ET

PDではL-dopaによる運動合併症(日内変動,ジスキネジア)によりADLが障害された患者に適応となる。

  専門医にコンサルトするための評価
(1) FLASQ-P
専門医へコンサルトする5つの基準
(Moro E. J Neurol 2016. 263(1): 112-119)

(2) EARLYSTIMULUS
メドトロニック社によるDBS適応評価補助ツール

  専門医での適応判定
(1) levodopa challenge testにてUPDRS part3 30%以上の改善
(2) 認知機能障害なし
(3) 画像診断:MRI, DAT-SPECT, MIBG心筋シンチグラフィ
(4) 外科的治療可能

DBS導入時期に関する一定のコンセンサスは得られていない。
  手術時に高齢であるほどoutcomeが良くない
(Charles PD. Neurology 2002; 59: 932-934)
  認知機能障害があるとDBS適応外となる
  運動合併症出現早期からDBS適応の妥当性が示されている
(Schuepbach WM. N Eng J Med 2013; 368: 610-622)
→早期適応も検討するべきであろう

[DBSの種類]
DBSの効果はL-dopaの効果と相関しており、L-dopaがよく反応する症状は改善が見込まれるが、best on以上の効果は望めない。
(中島明日香. 内科 2016; 118(2): 203-206)

STN-DBS, GPi-DBSではwearing offの改善及びon timeの延長が得られる。
(Weaver FM, JAMA 2009; 301:63-73)

wearing offの改善効果ではSTN>GPiである。
(Odekerken VJ. Neurology 2016; 86: 755-761)

GPi-DBSではdyskinesiaの改善を見込めるが薬剤減量は期待できない。
(Follet KA. N Eng J Med 2010: 362: 2077-2091)

STN-DBSGPi-DBSではQOLの改善に関しては有意差なし
(Follet KA. N Eng J Med 2010: 362: 2077-2091)

DBSにより姿勢異常や姿勢反射障害のような体軸症状、構音・嚥下機能、認知機能障害は進行する可能性がある。

特にSTN-DBSでは言語流暢性(verbal fluency)の低下が指摘されている。
(Parsons TD. Lancet Neurol 2006; 5: 578-588)

うつ症状に対する見解は一定しておらず、改善を認めるという報告と、悪化するという報告がある。術後の減薬が契機となっている可能性もあり、減薬には注意が必要である。
(Thobois S. J Neurosurg 2014; 121: 709-718)

STN-DBS
振戦,固縮,寡動など,特に薬剤オフ時の運動症状やADLを改善し,症状の日内変動やdyskinesiaを軽減する。さらに術後はdopa作動性薬剤の服用量を大幅に減量できる
(Kleiner-Fisman G. Mov Disord 21(Suppl 14):S290- 304, 2006)

STN DBSの効果は5~10 年の長期的に持続する
(Bang Henriksen M. Eur J Neurol 23:53-61, 2016)

症状別にみると、四肢の振戦・固縮・無動などに対する効果は長期的にもある程度維持される。一方、発声・嚥下・歩行(すくみ足)・姿勢反射障害などの治療抵抗性の体軸症状は病気の進行に伴って徐々に悪化し,認知機能の低下とともに長期治療におけるADL 悪化の要因となる。

(Romito LM. J Neurol 257(Suppl 2):S298-304,2010)

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