[PML] 進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy :PML)
[PML]
進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy :PML)
JC virusがオリゴデンドログリアに感染し、多巣性の脱髄病変を呈する。
感染性中枢性脱髄疾患。
[グリア細胞]
→神経膠細胞。神経系を構成する細胞のうち神経細胞ではないもの。
アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの3つに分類される。
(1)アストロサイト
→星状膠細胞
ニューロンの構造維持。主に構造維持に関与。
細胞外イオン濃度の調節
各種トランスポーターを用いた血液と脳実質の物質輸送(血液脳関門)
各種トランスポーターを用いた神経伝達物質の取り込み
グルコーストランスポーターを用いたニューロンの栄養
(2)オリゴデンドロサイト
→希突起神経膠細胞。中枢神経の髄鞘を形成する。
ミエリン塩基蛋白(MB-P)やプロテオリピッド蛋白(PLP)などで構成。
Gal-Cなどを含む。
(3)ミクログリア
→小膠細胞
損傷を受けた細胞の除去。
中胚葉・造血幹細胞揺らいでありマクロファージの特殊化と考える。
[疫学]
基礎疾患は欧米ではHIVが85%を占める。
本邦ではHIVのほか、血液疾患、自己免疫疾患など多岐にわたる。
近年ではMS治療薬ナタリズマブのPMLが話題になった。
(厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業プリオン病および遅発性ウイルス感染症に関する調査研究
2013)
HIVでは1-3/1000人
(Dworkin MS. Curr Clin Top Infect Dis
2002;22:181-195)
ナタリズマブ使用MS患者では 2.1/1000人
(Bloomgren G. N Eng J Med
2012;366:1870-1880)
と報告されている。
[機序]
日本人では健常人の70%がJCVに対する抗体を有するとされる。
抗体保有率は年齢とともに上昇する。
(Taguchi F. Microbiol Immunol 1982;26:1057-64)
潜伏しているJCVが細胞性免疫の低下により再活性化
血液脳関門を超えて中枢神経系に侵入
オリゴデンドロサイトでJCVが増殖し脱髄をきたす
PML患者の中枢神経系に認められるJCVは調節領域に再編成が認められる。
→PML型JCV (PML type)
PML type JCVが中枢神経感染をきたすか
中枢神経感染をきたしたJCVがPML typeになるかは不明
(Brew BJ. Nat Rev Neurol 2010;6:667-679)
[臨床症状]
多巣性の病巣を反映し、多彩な臨床症状を呈する。
進行とともに四肢麻痺、構音障害、嚥下障害、不随意運動、失語などを呈し最終的に失外套状態となる。
(Tan CS. Lancet Neurol 2010;9:425-437)
(厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業プリオン病および遅発性ウイルス感染症に関する調査研究
2013)
[検査所見]
血清抗JCV抗体:健常人の約70%で陽性。診断に寄与しない。
髄液検査:軽度細胞数増多/蛋白上昇を呈することがある。
MB-Pの軽度上昇を呈することはあるが、IgGの上昇はない。
髄液JCV DNA遺伝子検査は感度80%、特異度99%と診断に有用である。
HIV関連PMLでは髄液中JCV-DNA PCR検査を行った84例中49例(58.3%)でJCV-DNAが陽性であり初回髄液検査の偽陰性が多いことが指摘されている。
(Antinori A. J Neurovirol 2003;9:47-53)
頭部MRIでは皮質下白質、脳室周囲、半卵円中心など白質を中心とした大小不同、多発するT2/FLAIR
HIA, T1 LIAを認める。灰白質やテント下の病変を呈することもある。
経時的にLIAへと変化するため、比較的時間の経過した病変では辺縁HIA, 内部LIAとring enhanceのような所見を呈する。
浮腫・mass effect・造影効果を呈することは少ない。
→宿主の免疫応答が低下し炎症をきたさないためである。
免疫応答を生じる例では造影効果を伴う。
MRIで造影効果を呈する例や生検でリンパ球浸潤を伴う例では予後良好の傾向。
(Du Pasquir RA. J Neurovirol
2003;9(1):25-31)
JCVに対する特異的な細胞障害性T cellは末梢血・髄液から検出され良好な予後や病勢を反映する。
(Du Pasquir RA. Brain 2004;127:1970-1978)
[病理所見]
HE染色でオリゴデンドロサイトの腫大した核に好塩基性物質を認める。
脳生検では所見が検出できない可能性もある。
(水澤英洋.臨床神経2011;51:1051-7)
[診断]
厚生労働省プリオン及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班の診断基準 2013
(厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業プリオン病および遅発性ウイルス感染症に関する調査研究
2013)
[治療]
HIV-PMLと非HIV-PMLで治療が異なる。
1. HIV-PML
HARRT療法が推奨される。
メフロキンの追加投与を検討しても良いが十分なevidenceはない。
2.非HIV-PML
(1)モノクローナル抗体関連PML
原因薬剤の中止
血漿交換による原因薬剤の除去
ナタリズマブによるPMLでは血漿交換に加えてミルタザピンの投与検討。
血漿交換とメフロキンの併用は考慮しても良い。
* ナタリズマブ
ナタリズマブはMSの治療薬として用いられる。
遺伝子組み換えヒト化抗α 4 インテグリン モノクローナル抗体。
IgG4に属し、免疫グロブリンである。
BBBの機能変化により中枢神経系への単球侵入の抑制→MS再発抑制
ナタリズマブによるPMLの頻度は3.72/1000人。死亡率は22%。
2005年にPMLにより死亡者が出て一旦販売中止となった。
死亡者がそのほかの免疫抑制療法を併用していたことから2006年に再開。
ナタリズマブ使用におけるPMLの発症リスクは
①使用前の抗JCV抗体陽性②過去の免疫抑制剤使用③ナタリズマブ使用期間
によって既定される
(Hoepner R.J Cent Nerv Syst Dis 2014;6:41-49)
この3条件を満たすと発症率は11/1000人と著増する。
(三浦義治.臨床とウイルス 2016(3);44:1)
ナタリズマブは中枢神経系への単球流入をBBBレベルでシャットアウトするが全身免疫系は正常な石は亢進状態であることから、原因薬剤の中止により中枢神経系への過剰な炎症反応が生じるためとされている。
(RinaldiL.J Neurol Neurosurg Psychiatry
2010; 81:1345-1350)
免疫グロブリンであるため半減期は365時間と長い。
このため血液浄化療法として血漿交換療法や免疫吸着療法が行われる。
プロトコールとしては隔日
5回が一般的である。
ナタリズマブ使用中PMLの生存例ではミルタザピン併用が多い。
(Wenning W. N Engl J Med 2009;361:1075-1080)
(Linda H. N Engl J Med 2009;361:1081-1087)
(Schroder A. Arch Neurol 2010;67:1391-1394)
*メフロキン
マラリア治療薬。キネーネと類似の構造。
JCVに有効と報告。
(Kishida S. Intern Med 2010;49:2509-13)
275mg/day 3days投与。その後週1回275mg/dayの内服。
(Brickelmaier M. Antimicrob Agents
Chemother 2009;53:1840-1849)
(2)その他の非HIV-PML
原因薬剤の中止・減量を行う。
血液系悪性腫瘍が原因の場合は誘因薬剤の中止とシタラビンの投与を検討。
誘因薬剤の中止とともにメフロキンの投与を検討
* シタラビン、シドフォビルがin vitroでJCVの増殖を抑制した。
→多数解析で効果は否定的。
(Hall CD. N Eng J Med 1988;338:1345-1351)
(De Luca A.AIDS 2008;22:1759-1767)
* IFN-αが有効であるという報告もあるが明確なevidenceはない。
(Counihan T. J Neuro AIDS 1996;1:79-88)
[PML治療時の免疫再構築症候群]
(immune reconstitution inflammatory
syndrome: IRIS)
細胞性免疫回復によるJCV感染細胞への免疫反応
予後良好である場合もあり、重篤でない場合には治療を継続する。
ナタリズマブ関連のIRISではその他のPML-IRISよりも重篤化する傾向
(神田隆. Brain and Nerve
2015;67(7):891-901)
重篤でない場合にはPMLの治療を継続する。
重篤なIRISではステロイドパルスを検討する。
グリセオールまたはマンニトールは対症療法として使用を検討しても良い。
炎症細胞浸潤が
・ウイルスに対する制御された炎症反応
・秩序を逸脱した過剰な炎症反応(fetal IRIS)
なのかを判別する方法は確立されていない。
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