マイコプラズマと神経障害

【マイコプラズマ感染と神経障害】
マイコプラズマ感染後には脳炎や脳脊髄炎(ADEM)などの中枢神経障害や、GBSなどの末梢神経障害をきたすことが知られている。

マイコプラズマ感染に伴う神経障害の機序として
①マイコプラズマの直接浸潤
②自己免疫
が考えられている。
(Lind K. Acta Med Second 1979;205:325-332)

マイコプラズマ感染後の神経障害ではミエリンの主要な糖脂質であるgalactocerebroside(Gal-C)に対する抗体が比較的高頻度で認められる。

マイコプラズマ肺炎後にGal-C抗体陽性を認めた場合にも神経症状を呈さない例もある。マイコプラズマ感染後の神経障害でGal-C抗体が陰性である場合もある。

マイコプラズマ肺炎後で神経症状のない33例の患者血清を検討したところ、6例(IgMのみ2例、IgGのみ1例、IgMとIgGどちらもが3例)においてGal-C抗体が陽性であった。
(Kusunoki S. Muscle Nerve. 1996; 19: 257-8. )

[マイコプラズマと神経障害]
マイコプラズマ肺炎後の神経障害33例のうちGBSが17例、髄膜脳炎が10例、ADEMが1例、Fisher症候群が5例であった。そのうち10例でGal-C抗体が陽性であり、4例がIgM, 6例がIgGであった。10例中7例がGBS,3例が髄膜脳炎であった。
(楠進. Ann Review 神経 2013;3(1):123-128)

マイコプラズマ関連の神経障害と診断された46の患者のうち27例はGBS, 2例はFisher syndrome, 16例は中枢神経障害、1例は中枢神経障害とGBSの合併であった。
これらの患者のうち50%(23/46)には抗Gal-C IgM or IgG抗体が検出された。

(Motoi Kuwahara. J Neurol 2016;DOI: 10.1007/s00415-016-8371-1)

[マイコプラズマ感染と末梢神経障害]
GBSの先行感染としてマイコプラズマ肺炎の割合は比較的高く、Campylobacter jejuni, CMVに次いで2-6%と報告されている。
(Jacobs BC. Neurology 1998; 51: 1110-5)
(Hao Qi. J Neuroimmunol 1998; 81: 116-26.)

マイコプラズマ肺炎後の末梢神経障害5例の報告。
4例はGBSで1例はMMNと診断された。
(Kusunoki S. Muscle Nerve 1995; 18: 409-13.)

マイコプラズマ肺炎後のGBSで11例がGal-C抗体陽性。
電気生理学異常所見を認めた13例のうち11例が脱髄型であった。
(Ang CW. J Neuroimmunol. 2002; 130: 179-83.)

マイコプラズマ肺炎後のGBS7例のうち、6例が抗Gal-C抗体陽性であった。
6例のうち1例はGM1、GA1に対しても交差反応を認め、軸索障害を呈した。
他の5例に脱髄を呈している例は認めなかった。
(Susuki K. Neurology. 2004; 62: 949-56.)

マイコプラズマ肺炎後の抗Gal-C抗体陽性GBSの6例のうち、3例は脱髄、1例は軸索障害、1例は正常、1例は判別不能であった。
(楠進. Ann Review 神経 2013;3(1):123-128)

[マイコプラズマ感染と中枢神経障害]
マイコプラズマ感染症における中枢神経障害の頻度としては髄膜炎,脳炎,多発根神経炎, 脊髄炎の順に多い。
(田中康文. 臨床神経医学 1983;23(4):307)

マイコプラズマ感染の診断で入院した患者のうち中枢神経合併症の発症率は7%であった。
(Sterner G. Scand J Infect Dis 1969;1:203-208)

マイコプラズマ感染後の中枢神経障害は小児科領域で2-7%と高頻度に認める。
(Lerer RJ. Pediatrics 1973; 52: 658-68)

マイコプラズマ肺炎後の中枢神経障害3例の報告。
(Nishimura M. J Neurol Sci. 1996; 140: 91-5.)

マイコプラズマ肺炎後の中枢神経障害でC2以下の全感覚消失と弛緩性麻痺を呈した症例も報告されている。
(Kumada S. Pediatr Neurol. 1997; 16: 241-4.)

マイコプラズマ肺炎後の中枢神経障害は重症化しやすい傾向がある。
(楠進. Ann Review 神経 2013;3(1):123-128)

マイコプラズマ関連中枢神経障害と診断された17例のうち7例は脳幹脳炎を含む脳炎、3例は髄膜脳炎、3例は脳症、残りは髄膜炎、脊髄炎、ADEM、両側線条体壊死症(bilateral striatal necrosis)と診断された。
17例のうち12例には上気道症状を認めた。
17例のうち9例(53%)で抗Gal-C抗体(IgM or IgG)が特定された。
髄液中の抗Gal-C抗体は17例中3例で提出され、1例で抗Gal-C IgM抗体が陽性であった。
髄液検査では12例(71%)でcellの上昇、10例で45mg/dl以上のタンパクの上昇を認めた。
頭部MRIでは9例(53%)に所見を認めた。
13例で抗菌薬の投与とともに免疫療法が施行され、1例で免疫治療単独、2例では抗菌薬単独の治療が施行された。
免疫治療が施行された患者のうち、10例ではステロイド、4例ではIVMPとIVIg療法が施行された。
全ての例で、治療後に症状は改善し、死亡した例はなかった。
中枢神経疾患をきたした患者はGBS/FSの患者よりも若い傾向にあった。
中枢神経疾患を来した患者では優位に抗Gal-C IgMの検出率が高かった(CNSで41%, GBS/FSで13%)。



マイコプラズマ感染に伴う中枢神経障害17例
(Motoi Kuwahara. J Neurol 2016;DOI: 10.1007/s00415-016-8371-1)

[マイコプラズマ感染後の神経障害の機序]
マイコプラズマ感染後の神経障害ではミエリンの主要な糖脂質であるgalactocerebroside(Gal-C)に対する抗体が比較的高頻度で認められる。
(角谷真人. 神経内科 2010;72:519-523)

M. pneumoniae抽出脂質分画に存在するGal-C様構造と分子相同性をもつ
(Kusunoki S. Neurology 2001;57:736-738)

Galactocerebroside(Gal-C)とは中枢及び末梢神経のミエリンに存在するスフィンゴ糖脂質の物質

 (Saida T. Science 1979;204:1103-1106)

*抗Gal-C抗体
髄鞘に広く存在する。
(Dyer CA, J Cell Biol.1990:111;625-633)

Gal-C抗体陽性GBSでは感覚脱失とparesthesiaが多い。
(Ang CW, J Neuroimmunol.2002:130;179-183)

Gal-C抗体陽性GBSでは陰性GBSに比べ感覚障害が優位に多い。
運動神経電動速度では陽性GBSと陰性GBSで有意差なし。
感覚神経電動速度と振幅は陰性GBSに比べて陽性GBSで優位に低下。
→大径細胞障害が多いと推察される。
(Samukawa M, J Neurol Sci.2014:337;55-60)

マイコプラズマ肺炎後にGal-C抗体陽性を認めた場合にも神経症状を呈さない例もある。マイコプラズマ感染後の神経障害でGal-C抗体が陰性である場合もある。
→Gal-C抗体単独では脱髄をきたさない可能性がある。
Gal-C抗体に他の因子が加わると脱髄や軸索障害をきたすのではないか。
(Motoi Kuwahara. J Neurol 2016;DOI: 10.1007/s00415-016-8371-1)

マイコプラズマ感染後に脳炎をきたした患者において、脳脊髄液中のサイトカイン量が上昇していた。
(Narita M. Pediatr Neurol 2005;33:105-109)

T細胞の活性化に加えて抗Gal-C抗体の存在がEAN(Experimental Allergic Neurotitis=実験的自己免疫性神経炎) モデルラットの脱髄において必要である。
(Hahn AF. Muscle Nerve 1993;16:1174-1180)

→抗Gal-C抗体の存在に加えて、T細胞の活性化とサイトカインが病因に関与していると推察される。

[マイコプラズマ関連神経障害のうち中枢神経障害は若年者に多い]
マイコプラズマ感染に関連する神経障害のうち、中枢神経障害を来した患者はGBSやFSなどの末梢神経障害を来した患者よりも若年である傾向がある。これは、若年者ではBBBの発達が不十分であることに関係すると推察されている。

さらに、抗Gal-C IgM抗体はマイコプラズマ感染に関連する神経障害のうち、末梢神経障害を呈した患者よりも中枢神経障害を呈した患者でより高頻度に認められた。すなわち若年者の方が抗Gal-C IgMを呈する頻度が高く、これはマイコプラズマへの初感染が抗Gal-C IgM抗体産生を惹起している可能性を示唆すると考えられた。抗Gal-C IgG抗体は2回目以降の感染で速やかに産生されると考えられる。これにより、成人の抗Gal-C抗体陽性GBSでほとんどの症例が抗Gal-C IgG抗体にもかかわらず抗Gal-C IgM抗体陰性である理由が説明される。
(Motoi Kuwahara. J Neurol 2016;DOI: 10.1007/s00415-016-8371-1)

[その他]
マイコプラズマ感染後で神経障害をきたした抗Gal C IgM陽性でIgG陰性の9例のうち、2例にIgMからIgGへのクラススイッチを認めた。

IgGは回復過程で認められ、IgGの中でもIgG1succlassに属した。
(Motoi Kuwahara. J Neurol 2016;DOI: 10.1007/s00415-016-8371-1)


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コメント

  1. マイコプラスマは細胞膜につつまれた、原始的な細菌に分類されている。その細胞膜には造血系細胞のP抗原と同じ蛋白組成をもっているので、分子相同性の仮説で、allergy反応から、血管炎をおこし、いろいろな症状を起こすと考えてよいのではないか。おこる患者と起こらない患者の違いは、epitopeの少しの違いか、個々の、免疫系の違い。感染したマイコプラスマの主たる感染部位のちがいによるものでないか。2015年の流行の弛緩性麻痺は、一部はマイコプラスマ感染症のアレルギーが関係してるのではと思うのですが、どうでしょうか。

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