SIRSとDIC
【SIRSとDIC】
Immunothrombosis
・微生物由来抗原(PAMPs)が免疫担当細胞(単球)と結合し外因性凝固の活性化
・好中球から放出されるNETsによるⅩⅢ因子の活性化
・NETs及びNETsと結合したvWBFによる血小板の活性化
・NETs含まれる好中球エラスターゼやMPOよる内因性抗凝固の不活化
・組織因子による外因性凝固の活性化
・PAI-I増加による線溶系の抑制
→病原体を局所に封じ込めるための生体防御反応
(Engelmann B. Nat
Rev Immunol 2013;13:34-45)
敗血症におけるDICの機序
(1)凝固活性化
(2)抗凝固抑制
(3)線溶系抑制
(日本血栓止血学会学術標準化委員会:日血栓止血会誌 2009;20:77-113.)
[DIC]
全身性の凝固亢進により血管内で血栓が形成され中小血管の閉塞を来す。
(1)血流障害による多臓器不全
(2)血小板と凝固因子の消費性低下による出血傾向
(M Levi, N Engl J
Med 1999; 341:586-592.)
[DICの原因疾患]
この中では敗血症が最も多い。
敗血症の25%程度にDICを合併するとされている。
[DICの診断]
(1)DIC診断基準
* SIRS診断基準
①BT>38or<36, ②HR>90m, ③RR>20, ④WBC>12000or<4000
(2)日本止血学会による新しいDICの診断基準
(DIC診断基準作成委員会. 日本止血学会誌 2014;25:629-645)
[診断に役立つ検査項目]
[FDPとDDの対応表]
[DICに対する治療]
DICの本態は凝固亢進であり抗凝固療法が主体となる。
(日本血栓止血学会. 血栓止血誌 2009;20(1):77-113)
治療開始時のDICスコアが高いほど治療改善率が低下する。
(Wada H. Thromb
Haemost 1995;74-848-852)
(1)原疾患の治療
(2)抗凝固療法
・未分画ヘパリン
一般的なヘパリンのこと。
血栓症を合併した際に投与を考慮する。
APTTx1.5程度でcontrolする。
DICに対するevidenceはなく、rTMなどに対して劣勢効果が示されている。
(Taylor FB Jr. Thromb
Haemost 2009;20:77-113 )
ATⅢ製剤との併用で出血が助長されたと報告されている。
(Warren BL. JAMA
2001;286:1869-1878)
・低分子ヘパリン
Dalteparin(フラグミン)が日本で唯一承認されている。
未分画ヘパリンに比して優位に症状改善し、安全性も高い報告がある。
(Sakuragawa N.
Thromb Res 1993;72:2815-34)
投与量を調節する臨床的な指標がない。
75U/Kgを24時間かけて投与する。
肝機能障害がある場合には血中濃度上昇をきたす恐れがあり注意が必要。
・ATⅢ
AT製剤の投与によりDIC合併の敗血症の死亡率が低下したと報告。
(Wiedermann CJ.
Crit Care Med 2006;34:285-292)
ATⅢ活性が70%以下に低下した敗血症性DICに対して保険適応。
ノンスロン, ノイアート, アンスロビン 1500U/day 3-5日間投与。
ATⅢ活性が50%以下に低下した敗血症性DICに対してATⅢ3000U 3days投与で生存率が改善したと報告されており、検討しても良い。
(Iba T. Thromb
Res 2012;130:e129-33)
ヘパリンとの併用で出血合併症により予後低下し、併用すべきではない。
(Warren BL. JAMA
2001;286:1869-1878)
・トロンボモデュリン製剤(recombinant
human thrombomodulin: rh-TM)
可逆的にトロンビンと結合し、この複合体はプロテインCの活性化を促進することで新たなトロンビンの生成を阻害する。
(Saito H. Thromb
Haemost 2007;5:31-41)
血栓溶解阻害因子(TAFI)の活性化を介した抗線溶作用を用する。
(Higuchi T. Biol
Pharm Bull 2009;32:179-185)
High Mobility
Group Box-1(HMGB-1)を吸着し、中和・分解することで炎症反応を抑制する。
(Ito T.
Arterioscler Thromb Vas Biol 2008;28:1825-1830)
多彩な薬理作用により総合的にDICの治療へ寄与する。
Rh-TM非投与群に比べ投与群では優位に予後改善を認めた。
(Yamakawa K. Crit
Care 2011;15:R123)
ヘパリン投与群と比べrh-TM投与群では優位に予後改善を認めた。
(Saito H. J
Thromb Haemost 2007;5:31-41)
リコモジュリン 380U/kg 1日1回 30分かけて投与。
重度の腎機能低下があれば130 U/kg
1日1回
に減量する。
・合成プロテアーゼ阻害剤(SPI)
FOY:メシル酸ガベキサート
FUT:メシル酸ナファモスタット(フサン)
FOYやFUTなどのSPIは未分画ヘパリンと同等の有効性が示されている。
出血合併症のriskがある場合にも使用可能である。
AT非存在下でも効果を発揮することからATⅢ低下時にも投与可能。
凝固系と線溶系の両者を抑制することから線溶系優位のDICに特に有効。
未分画ヘパリンのDICに対するevidenceが確立されてない以上使用は限定的。
FOY(メシル酸ガベキサート)
線溶系抑制効果はFTUと比べるとない。
0.06~0.2mg/kg/hr 24時間かけて投与
FTU(フサン)
線溶系優位のDICに対して200mg/24hrs(1.44~4.8mg/kg/day)
副作用として高カリウム血症やショック。
(3)輸血療法
基本的には推奨されないが、各成分の補充目的に検討しても良い。
・新鮮凍結血漿(FFP)
消費性に低下した血液凝固因子の補充目的に用いられる。
また、AT, α2PI, PC, PS, ADAMTSⅩⅢなどの凝固線溶阻害因子も含む。
・濃厚血小板輸血(PC)
著名な出血傾向があり、Plt 5万以下の時に投与しても良い。
敗血症性DICの場合には適切な抗凝固療法を併用しないとMOFとなる。
ADAMTS-13が3%以下のTTPでは慎重投与。
HITでは禁忌となる。
血小板の生体内での半減期は3-5日であり、血小板生産の停止した状態では1回10-15UのPCを2-3回/週輸血する必要がある。しかし、DICでは血小板半減期も短縮されていることが多く、投与量や投与回数が増加する傾向がある。
(4)腎代替療法
主にsepsisの治療として用いられる。
BUNやCreを指標とした明確な基準はない。
初期輸液療法をおこなっても利尿が得られない重症敗血症で考慮する。
明確なevidenceはないがCRRTが推奨される。
20-40ml/kg/hrが推奨されているが明らかなevidenceはない。
[DICに使用される薬物一覧]
[DICと鑑別するべき病態]
血栓性微小血管障害(thrombotic
microangiopathy: TMA)
→消費性血小板減少、破砕赤血球を伴う溶血性貧血、臓器不全を呈する疾患群。(Wada H. Semin Thromb Hemost 2014;40:866-873)
原因:TTP, HUS, 非定型HUS, 二次性TMA
TTP(血栓性血小板減少性紫斑病): ADAMTS13の減少による。
STEC-HUS(溶血性尿毒素症候群):志賀毒素産生大腸菌(STEC)感染による。
Atypical HUS(非定型HUS: aHUS): 補体制御系の異常による。
二次性TMA
(1)TTP
血小板減少(Plt<12万),貧血(Hb<10), 動揺する精神神経症状, 発熱, 腎機能障害を5徴候を主徴とする疾患。
(Wada H. Semin
Thromb Hemost 2014;40:866-873)
ADAMTS13の欠損によりvWB因子が血中に残存し血小板の凝集を促進する。
その結果として全身性の微小血栓が形成されTTPを発症する。
TMAの1/4を占める。
(Ito N. Int J
Hematol 2009;90:328-335)
(2)HUS
血小板減少(Plt<12万),貧血(Hb<10),腎機能障害を3徴候を主徴とする疾患。
大半は志賀毒素産生大腸菌感染によるSTEC-HUSでTMAの1/3を占める。
(Ito N. Int J
Hematol 2009;90:328-335)
TTPとHUSの鑑別にはSTECとADMTS13の測定により行われる。
補体制御系の異常によるaHUSは遺伝子検査にて診断可能である。
(東大病院で測定可能 http://www.todai-jinnai.com/iryou/ahus)
[DICとTMAの鑑別]
TMAでは病初期より高度な貧血(MHA)を認める。
DICでも固形癌骨髄転移や劇症型溶連菌感染症ではMHAを合併する。
ADAMTS13<10%でTTPと診断されるが敗血症性DICでも著しくADAMTS13の低下を認める例もある。
(Kobayashi T.Thromb
Res 2008;121:849-854)
(Habe K. Thromb
Res 2012;129:598-602)
補体活性化はaHUSで著しいがDICでも報告がある。
(Habe K. Thromb
Res 2012;129:598-602)
(Ito-Habe N. Int
J Hematol 2011;93:47-52)
FDP増加などの凝固亢進はDICで著しい。
(Wada H. Clin
Chim Acta 2014;436C:130-134)
GPⅥの増加で示される血小板活性化はTMAで著しい。
(Yamashita Y. Thromb
Res2014; l33:440-444)
(和田英夫. ICUとCCU 2016;40(3):193-197)
[診断]
TMAが疑われた場合まず、最も頻度の高いSTEC-HUSを疑う
→STECの検索及び大腸腫大の確認。
STEC-HUSが否定されたらADAMTS13の測定を行う。
→ADAMTS13<10であればTTPでありPEやIVMPを行う。
インヒビター価が高ければリツキシマブの投与を検討する。
→ADAMTS13>10であれば二次性TMAを考える。
移植、妊娠、膠原病、悪性腫瘍、薬剤、敗血症/DICの検索を行う。
→二次性TMAが否定されればaHUSの可能性を考える。
蛋白・遺伝子の解析を行う。
aHUSに対してはエクリズマブが有効である。
(和田英夫. ICUとCCU 2016;40(3):193-197)
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