NMDA受容体脳炎

NMDA受容体脳炎】
2007年に卵巣奇形腫に随伴する傍腫瘍症候群として提唱された。
現在は、腫瘍を合併するとは限らないとされている。

典型例では、非特異的な前駆症状に引き続き、著名な精神症状が出現し、その後意識障害、けいれん、中枢性低換気、不随意運動、及び自律神経症状が持続する難治性疾患である。

NMDARはグルタミン酸のイオンチャネル型受容体としてシナプス後膜に発現する機能タンパクであるNMDA-Rを構成するサブユニットGluN1GluN2が会合し4量体からなるからなる受容体を細胞膜に形成する。

[疫学]
若年女性に後発する。
30歳以下の若年者では単純ヘルペスウイルス脳炎や帯状疱疹ウイルス脳炎の約4倍とされている。
(Gable MS. Clin Infect Dis 2012;54:889-904)

免疫介在性脳炎の中では急性散在性脳脊髄炎(ADEM)に次いで多いとされる。
(Granerod J. Lancet Infect Dis 2010;10:835-844)

あらゆる年齢層で発症しうるが、45歳以上は5%と稀である。
女性で多いが、男性でも稀ではない。

[病因]
髄内で生産されている抗NMDA受容体抗体を介して発症する。

女性に限定すると背景に卵巣奇形腫を94%に認めた。
男性の腫瘍合併率は6%と低い。
卵巣奇形腫以外の腫瘍としては卵巣外奇形腫2%, 肺癌・乳癌・精巣腫瘍などで残りの4%を占める。

[病態]
NMDA受容体抗体は主にsubclass IgG1で構成されている。
シナプス後膜にクラスターを形成しているNMDA受容体に架橋結合し、NMDA受容体を内在化させ、シナプス後膜に存在する受容体数を減少させることで受容体機能の低下をきたしていると考えられている。
(Dalmau J. Lancet Neurol 2008;7:1091-1098)
(Dalmau J. Lancet Neurol 2011;10:63-74)
その他、NMDA受容体とAMPA受容体の不均衡、Glu作動性ニューロンやDOPA作動性ニューロンの脱抑制も機序として考えられている。
[診断]
NMDA受容体抗体の陽性で確定診断。
偽陽性を避けるために血清だけでなく髄液で検査を行う。

髄液検査では非特異的な炎症性変化を示すことが多い。
Cell 6-219/μl
Protein 21-129mg/dl
と報告されている。

67%OCBが陽性となる。
(Dalmau J. Lancet Neurol 2008;7:1091-1098)

MRI上典型的な側頭葉内側のHIAを認める例は22%程度である。
(Dalmau J. Lancet Neurol 2008;7:1091-1098)

脳波では発作波を認める例は23%にすぎない。
δ波を中心としたびまん性の徐波を認める。
(Dalmau J. Lancet Neurol 2008;7:1091-1098)

extreme delta brushという所見が特異的と報告されたが軽症では認めない。
大徐波の上に 25~30 Hz 以上のβ域速波をみる。
(Schmitt SE. Neurology 2012;79(11):1094-100.)

12歳以上の女性では卵巣奇形腫の検索は必須である。
卵巣奇形腫の診断にPET-CTは役に立たない。

[鑑別診断]
単純ヘルペス脳炎
ベーチェット
サルコイドーシス
CNS lupus
ADEM
橋本脳症

[症状経過]
(1)非特異的感染症状
(2)統合失調症類似の精神症状
(不安・抑うつ・幻覚・妄想など)
(3)精神症状が極期になる頃痙攣発作を生じる。
(4)急速に無反応状態に陥る。
自発呼吸が減弱し、唾液分泌亢進、嚥下機能障害などを伴う。
(5)人工呼吸器管理となる。
口・顔面を中心とするdyskinesiaを生ずる
四肢体幹の多彩な不随意運動を生じる
多彩な自律神経症状を認める
痙攣発作が持続し、一般的に抗てんかん薬は無効である。

[診断基準]

[治療]
IVMP + IVIg or PE
腫瘍を認めた場合には腫瘍切除を行う。

(1)反応良好
支持療法
免疫抑制剤の慢性投与(ミコフェノール酸モフェチルorアザチオプリン)
年に1回の腫瘍検索

(2)反応不良
リツキシマブor IVCPM(シクロフォスファミド)
→反応性不良であればMTX経口or頸静脈的投与を行う。
(Titulaer MJ. Lancet Neurol 2013;12:157-165)

[予後]
神経細胞の消失を来すのではなく液性免疫を介する可逆性のシナプス機能障害が病態であるために生命予後や機能予後が比較的良好であると考えられている。
(Dalmau J. Lancet Neurol 2011;10:63-74)

24ヶ月後に81%mRS 2以下。全体の死亡率は9.5%

予後不良因子
  治療開始の遅れ

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