[研修医必須項目] 10-4 糖尿病

<糖代謝異常>
【診断基準】
診断基準:
空腹時血糖値≧126mgdl,75gOGTT2時間値≧200mgdl,随時血糖値≧200mgdlのいずれかが,別の日に行った検査で2回以上確認できれば糖尿病と診断してよい。
1回の検査だけ基準を超えた場合には糖尿病型と呼ぶ。
また、糖尿病型を示し、かつ、i)糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在,iiHbA1c≧6.5%,iii)確実な糖尿病網膜症の存在のいずれかの条件がみたされた場合も、1回だけの検査でも糖尿病と診断できる。

【分類】
*Ⅰ型糖尿病(a:自己抗体陽性、Ⅰb:特発性) *Ⅱ型糖尿病
*二次性糖尿病 *薬剤性糖尿病

【原因/鑑別診断/検査】
いくつかの遺伝素因と生活習慣(運動不足,過食,高脂肪食)などの環境要因が重なって,インスリン作用の相対的不足を生じるため高血糖が持続し,そのため特有の細小血管症(腎症,網膜症,神経症)を生じる疾患で,動脈硬化も促進する.
*尿検査:個人差はあるがBS160-180を超えると尿糖陽性となる。
尿蛋白定量により腎障害の進行度を評価できる。尿中微量アルブミンは腎症の早期発見に有効。
*血糖:血糖値の上昇を認めるが、これには空腹時血糖測定とOGTT、あるいは食後の血糖測定がある。
HbA1c,フルクトサミン
*血中インスリン(IRI)・CPR:インスリン分泌能測定に有用。NIDDMでは、初期にはインスリン分泌能が亢進するが、進行すると低下する。

また、網膜症、神経症、動脈硬化症などの合併症の検査を行う。
*網膜症:眼底検査
*神経症:振動覚・アキレス腱反射
*動脈硬化:頚動脈エコー、ABI
【治療】
*食事療法:
 血糖値のコントロールのみならず肥満,高血圧ならびに高脂血症の管理も重要であり,糖尿病患者においてはBMI2022,血圧13085mmHg以下,総コレステロール140200mgdl,中性脂肪120mgdl未満(早朝空腹時),HDLコレステロール40mgdl以上を目標とする.
*運動療法:
 禁忌は増殖性網膜症による新鮮な眼底出血 顕性腎症に進行した糖尿病性腎症と FBS250/dl以上。
*薬物療法:
*経口血糖降下薬の適応と種類
妊娠中または妊娠する可能性の高い女性には使用しない.基本的には,内因性インスリン分泌能がある程度以上保たれている症例が適用。いずれの薬剤も少量から始め,必要に応じて徐々に増量する.
1. インスリン分泌促進薬 
スルホニル尿素(SU)薬と速効型インスリン分泌促進薬がある.両者とも膵β細胞SU受容体に結合してインスリン分泌を促進するので,両者の併用や2種類のSU薬併用は意味がない.SU薬は内因性インスリン分泌能のある程度低下している患者が,速効型インスリン分泌促進薬はインスリン分泌能は比較的保たれているが食後の追加分泌が低下している患者が適用になり,肥満者やインスリン抵抗性の明らかな患者への単独の第一選択薬とはならない.しかし,このような患者で,糖毒性や膵β細胞の疲弊のためにインスリン分泌能が低下している場合には,併用の適用となる.
 SU薬は6種類以上が発売されており,第1世代のトルブタミド(ラスチノン,ジアベン),アセトヘキサミド(ジメリン),第2世代のグリベンクラミド(ダオニール,オイグルコン),グリクラジド(グリミクロン)などがある.新しくグリメピド(アマリール)が発売されたが,これはインスリン分泌促進作用に加え,インスリン抵抗性改善作用もあるという.血糖降下作用はグリベンクラミドが最も強く,グリクラジド,トルブタミドの順である.SU薬による低血糖は,遷延して重篤化しやすいので特に高齢者や肝・腎機能障害者では十分注意しなければならない.速効型インスリン分泌促進薬として現在発売されているのは,ナテグリニド(スターシス,ファスティック)のみである.その血糖降下作用は急速であり,食前30分投与では低血糖の危険があり,毎食前10分以内に投与しなければならない.空腹時血糖降下作用は弱く,食後2時間値が250mgdl未満の食後高血糖を呈する患者が最もよい適用となる.
2. インスリン抵抗性改善薬
 ビグアナイド薬とチアゾリジン誘導体がある.前者は主に肝臓からの糖放出を抑制するインスリン作用を,後者は主に筋肉への糖取り込みを促進するインスリン作用を改善してインスリン抵抗性を解除する.したがって両者の作用は相加的であり,作用により血糖降下作用は増強される(ただし,この併用は保険未承認).インスリン抵抗性を示す患者への第一選択薬であるが,運動不足,過食,高脂肪食などの生活習慣の悪化はいずれもインスリン抵抗性を生じるので,この種の薬の投与の前には食事療法,運動療法の徹底を図る.
   ビグアナイド薬には,メトホルミン(メルビン)とブホルミン(ジベトスB)がある.体重の増加をきたさないが,時に消化器症状や食欲の低下を訴えることがある.副作用として乳酸アシドーシスが有名であり,腎機能低下者(Cr2.0mgdl),過度のアルコール摂取者では禁忌である.チアゾリジン誘導体には,ピオグリタゾン(アクトス)がある.類薬に重篤な肝障害の報告があり,現在1回/月の肝機能検査が義務づけられており,検査結果をすぐに確認しながら診療を行うべきである.軽度の貧血,浮腫も報告されている.
3. 糖吸収阻害薬: 
小腸粘膜に存在する二糖類分解酵素の作用を阻害するα‐グルコシダーゼ阻害薬が知られている.その結果,糖の消化吸収が遅延する.したがって200260mgdl程度の食後高血糖を呈する患者がその適応となり,空腹時の血糖低下作用は弱い.作用機序が異なるため他の経口血糖降下薬やインスリン製剤と併用して用いられる.α‐グルコシダーゼ阻害薬としては,アカルボース(グルコバイ)とボグリボース(ベイスン)が発売されている.必ず食直前に服用するように指導することが重要である.副作用として,腹部膨満感,放屁,下痢などがあるが,低用量から始めることにより軽減できる.高齢者や腹部手術の既往のある患者ではイレウスなどに注意する.重篤な肝障害の報告があるので肝機能に留意しながら使用する.低血糖を単独投与で生じることはないが,併用時には生じうる.この際は,砂糖でなくブドウ糖を投与しなければならない。
4. インスリン療法の適応: 
インスリン療法の絶対的適応は,インスリン依存状態(前記参照)に加えて,糖尿病昏睡,重症感染症の併発,中等度以上の外科手術,重篤な肝あるいは腎障害,糖尿病合併妊婦である.内因性インスリン分泌がある程度認められても,ケトーシス傾向がある場合や糖毒性の解除のために著明な高血糖を認める場合(随時350mgdl以上)は相対的適応となる。
【経験した症例】

歳男性。13年来の2型糖尿病歴がありインスリン加療されていたが、必要量が徐々に増加するため教育入院となった。合併症については、網膜症に対して光凝固療法を行い、振動覚低下・アキレス腱反射低下など神経障害が強く認められた。精査にて悪性疾患がないことを確認し、食事療法や栄養指導を行い、インスリンでの血糖コントロールもついた後に退院となった。


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