[研修医必修項目] 1-9 発熱

<発熱>
定義
 体温調節中枢の視床下部核の設定温度異常により、体温が上昇する現象。
 正常体温は37℃とされているが、個人差が多少あり、日内変動も認める。また、直腸温度は口腔内より0.6℃高い。
 実際、何℃からが『発熱』と判断するかは明確ではないが、近年の腋窩体温計では
早朝:37.2℃以上、夜間:37.8℃以上を『発熱』と考えるべきとの報告もある。
分類
*弛張熱
日内変動が1℃以上あるが、平熱までは下がらないもの。
敗血症、ウイルス感染症(インフルエンザウィルス・マイコプラズマなど)をはじめ種々の感染症、化膿性疾患、悪性腫瘍、膠原病(若年性関節リウマチ)などが代表的。
*稽留熱
日内変動が1℃以内で、高熱が持続するもの。
チフス症、第陽性肺炎、髄膜炎、蜂窩織炎、オウム病など各種感染症。
*間欠熱
発熱が数時間継続しそれ以外は平熱に戻るもの。
化膿菌による膿瘍、G(-)桿菌による菌血症、尿路感染、粟粒結核、解熱剤投与時など。
特に三日熱マラリア(1日おきの発熱)と四日熱マラリア(2日おきの発熱)が有名。
*波状熱(回帰熱)
 数日間、間欠熱・弛張熱・稽留熱の期間があり、続いて無熱期に移る。この周期を310日間隔で繰り返すもの。
Hodgkin病、胆道閉鎖症、多発性神経炎、脊髄障害など。

原因/鑑別診断
*感染症:髄膜炎、脳炎、副鼻腔炎、急性中耳炎、咽頭炎、扁桃炎、喉頭蓋炎、気管支炎、肺炎、胸膜炎、結核(粟粒結核・腎結核・腸結核)、肝炎、胆嚢・胆管炎、胃腸炎、
尿路感染症、敗血症、膿瘍(腎膿瘍・肝膿瘍・肺膿瘍・脳膿瘍)、細菌性心内膜炎、心外膜炎、各種ウィルス・真菌・寄生虫感染など
*悪性腫瘍:腫瘍熱
      リンパ腫:発熱はほぼ必発      肝細胞癌:約20%が発熱  
腎細胞癌:約33%が発熱  膵癌など
*膠原病:SLE:初発時約36%発熱
関節リウマチ:最大25%が発熱  リウマチ熱
血管炎(結節性動脈周囲炎・巨細胞動脈炎・ウェジナー肉芽腫症)など
*その他:詐熱、痛風、アミロイドーシス、甲状腺機能亢進症、副腎機能不全、
    悪性高熱、熱射病
肺塞栓症:約14%に認める。  薬剤熱  中性神経疾患  不明熱
実施すべき検査
*検体検査
 血算・生化学、各検体検査(尿・髄液・胸腹水など)
一般的項目:白血球数・左方移動(好中球の15%以上に桿状球が増大した状態)CRPESRも感染の有無の参考になる。
各種抗体検査:ウィルスへのIgGIgMIgAなど検査。感染早期を反映するのはIgM
       膠原病に対する自己抗体検査(ANA抗体、抗dsDNA抗体、抗SS-A抗体、抗RNP抗体)、補体価など。
各ウィルスのPCR:主にヘルペスウィルス・結核菌などに活用されている。
抗原検査:各検体で、迅速キットなどで抗原を検索。
     インフルエンザ(咽頭ぬぐい液)、肺炎球菌(尿)、髄膜炎菌・インフルエンザ菌・
     A群レンサ球菌など。
細菌検査:細菌感染症の診断には不可欠。必ず抗生剤投与前に採取。
      血液、尿、喀痰、便、咽頭、化膿巣、髄液、骨髄液、胸腹水、胆汁など。
原則グラム染色し推定する。培養にて確定する。
 細菌感染症の疑いがあるにもかかわらず、起炎菌が検出できない時は繰り返し検査する。
*理学的検査
 エコー:胸腹部。膿瘍、胆のう炎、尿路結石、虫垂炎など検索可能。
 胸腹部単純撮影:特に胸部は原則2方向撮影。
 CT撮影:感染・腫瘍を検索するなら原則造影撮影。しかし腎機能・アレルギーに注意。
 MRI:脳梗塞急性期や脳炎検索に。拡散強調画像で脳梗塞急性期・脳炎のbright tree signが確認できるため忘れずに。
シンチグラフィー:悪性腫瘍検索、膿瘍、骨髄炎、関節炎

治療
  原疾患の治療が原則。
  敗血症など全身状態不良例には抗菌薬をエンピリック的に使用する。この場合、培養などは治療開始の遅れ繋がる場合は採取は後回しにする。
  解熱剤は不快感・体力消耗防止のために使用可能。しかし肝・腎機能、血圧に注意。
  また、若年者にアスピリン剤は避ける(Reye症候群予防)
経験した症例

 特に既往のない歳女性。前日より微熱、倦怠感、食思不振を認め安静にして経過をみていたが、翌日になり38度台まで体温が上昇し、関節痛も認めたため来院した。インフルエンザワクチンは接種しておらず、リンパ節腫脹、発疹、下痢や嘔吐などの症状は認めなかった。インフルエンザ迅速キットにて検査したところ、インフルエンザA陽性となったため、イナビルを2キット使用し帰宅となった。


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