[研修医必須項目] 6-4 呼吸器感染症

<呼吸器感染症>
【分類】
上気道感染症 *肺炎 *院外肺炎 *院内肺炎
【分類/原因/鑑別診断】
*院外肺炎:
  市民生活のなかで感冒などを契機として罹患する肺炎を指す。若い健常者に発症する場合、高齢者や全身性基礎疾患を有する場合、慢性呼吸器疾患に合併する場合があり、起炎病原体なども少し異なる。

*院内肺炎:
  院内肺炎(hospitalacquired pneumonia, nosocomial pneumonia)とは入院治療中の患者で発症する肺炎で,入院時すでに潜伏感染にあって発症するものを除外するために,一般的に入院後48時間以後に発症したものを指す.

【治療 】
*院外肺炎:
臨床症状に加え胸部X線、血液検査で診断する。必要ならば(意識レベルが低下している、呼吸状態が不安定など)血液ガス分析、Vital等も含め重症度を判断する。
 重症度判定にはA-DROPシステムによる分類が用いられる。
・男性70歳以上 女性75歳以上
BUN 21mg/dl以上又は脱水あり
SpO2 90%以下(PaO2 60mmHg以下)
・意識障害
・収縮期血圧 90mmHg以下
 抗生剤を投与する前に各種培養を取り、可能ならば喀痰等グラム染色を行う。

 軽症例(A-DROP どれも満たさない)では、安静を保たせ,必要に応じて去痰薬などを 用いる。痰がなく咳が強い場合は中枢性鎮咳薬も考慮する。脱水を防ぐため十分に水分を摂取させる。
A.基礎疾患のない場合
細菌性と非細菌性の場合が考えられる。細菌性としては、肺炎球菌・インフルエンザ菌・モラキセラ カタラリス、黄色ブドウ球菌の頻度が高い。肺炎マイコプラズマは小児や若年成人に多い。粘液膿性痰、膿性痰を伴えば細菌感染が疑われる。広域スペクトラムのβラクタム薬、下記の処方例1)か2)が選択されることが多い。しかし3日以内に改善傾向がみられなければ、処方例3)に切り替える。若年者で頑固な乾性咳があれば、肺炎マイコプラ ズマの可能性が高い。この場合βラクタム薬は無効なので処方例3)を選択する。4年周期の流行傾向も最近では明瞭でなくなってきたので注意を要する。この薬剤はクラミジアにも有効である。

*院内肺炎:
 患者背景には易感染となる何らかの宿主側要因がある。
また、起炎病原体も院内環境菌や患者自身の腸内細菌などが主として経気道的に感染することから、耐性菌や弱毒菌での肺炎成立という院外肺炎とは異なる特異性を有する。したがって、治療は病原体に対する化学療法に加えて、必ず再感染や菌交代防止のための感染防止策を併用することを忘れてはならない。

A.腋感染宿主要因
院内肺炎の宿主側要因として最も重要なものには,十分な口腔ケアができない患者の状態がある.すなわち,脳血管障害などでの寝たきり,急性・慢性呼吸不全での気管内挿管・気管切開・人工呼吸器,経管栄養,IVH施行では,口腔内への病原細菌の侵入増殖,あるいはもともとは少ない菌数で口腔内に常在していた弱毒病原細菌の顕在化が起こりやすくなる.
他に基礎疾患に糖尿病,腎不全,慢性呼吸器疾患,慢性心疾患,さらには悪性腫瘍などが易感染要因となりうる。
また,入院長期化に伴う低栄養,貧血も感染抵抗力の低下につながり,褥瘡,尿道カテーテルなどは耐性菌持続感染の温床となりやすい。特に誤嚥は院内肺炎の直接的要因となり、食物残渣・胃液などの気管内吸引は難治の気道・肺障害へと進展し,病原細菌の侵入・増殖を容易なものとする。したがって,経口摂取している入院患者での嚥下障害の有無は看護上での重要なチェック項目である。
B.起炎病原体
院内肺炎での最大の問題は病原体が耐性菌,抗菌薬に低感受性の弱毒菌さらには複数菌感染としてみられる。
院外発症肺炎が肺炎球菌,インフルエンザ菌(ほとんどnontypable),ブランハメラ(モラクセラ・カタラーリス)などの呼吸器親和性病原細菌に加えて,マイコプラズマ,クラミジアやインフルエンザウイルスなどの呼吸器親和性ウイルスが中心的なものであるのに比して,院内肺炎は緑膿菌や黄色ブドウ球菌など多剤耐性化しやすく,かつ呼吸器にも臓器親和性を有する病原細菌が頻度としても高いことになる・
黄色ブドウ球菌ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)としてよく名前が知られているが,MRSAも実際には多くのβ‐ラクタム薬,テトラサイクリン系,マクロライド系,アミノグリコシド系などの代表的な抗菌薬に耐性を獲得している菌株が近年急増してきた。 
緑膿菌,黄色ブドウ球菌のほかに肺炎桿菌,セラチア・マルセッセンスなどのブドウ糖発酵グラム陰性桿菌,緑膿菌以外のアシネトバクターなどのブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌,グラム陽性球菌では腸球菌などいずれも抗菌薬に多くが耐性または低感受性である。
また,誤嚥性肺炎や肺化膿症の病態を示す場合には特に上記の好気性菌に加えてバクテロイデス属などの嫌気性菌が関与する頻度が増える.さらにカンジダ属などの真菌類,結核菌,インフルエンザウイルスなどの呼吸器病原ウイルスも院内感染での伝播がみられる.


【経験した症例】

20年来の2型糖尿病の既往がある歳男性。経口血糖降下薬により血糖コントロールは良好であった。発熱・咳・痰を自覚し、外来を受診した。呼吸状態は安定していたが、炎症反応高値(CRP20)、胸部Xpにて右上葉の透過性低下を認めた。採血・尿検査によりマイコプラズマ、レジオネラ、肺炎球菌は陰性であることが確認された。糖尿病があり免疫力低下状態であると考え、PIPC/TAZ 3.5g3×を開始した。抗生剤投与により解熱・炎症反応は徐々に低下しCRP2以下となり、胸部Xp上も改善傾向が認められたため、投与14日目に抗生剤を終了とした。なお、痰培養や血液培養から有意な菌は検出されなかった。


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