[研修医必須項目] 5-3 高血圧

<高血圧>
【定義】
収縮期血圧140mmHg 以上、または拡張期血圧90mmHg以上またはその両方の状態。
【分類】
上気道感染症 *肺炎 *院外肺炎 *院内肺炎
【分類/原因/鑑別診断】
*本態性高血圧:
本態性高血圧の原因は不明であるが、複数の遺伝因子と環境因子が関与していると考えられ、家族歴の聴取は重要。
定義を満たし、かつ他のすべての二次性高血圧を除外して診断となる。
*二次性高血圧
・腎実質性高血圧:慢性糸球体腎炎、糖尿病性腎症、慢性腎盂腎炎等
・腎血管性高血圧:動脈硬化、大動脈炎症候群、繊維筋性異形性
・内分泌性高血圧:原発性アルドステロン症、先天性副腎皮質過形成、Cushing症候群、褐色細胞腫、レニン産生腫瘍等
・血管性高血圧:大動脈縮窄症、大動脈弁閉鎖不全症
・薬物誘発性高血圧:糖質コルチコイド、グリチルリチン製材、漢方薬、エストロゲン製剤、非ステロイド性抗炎症薬等

【治療】
まず、全ての高血圧患者には生活習慣の是正を推奨する。薬物療法開始の条件や降圧目標値についてJNCVIWHOISH間で若干の相違がみられるものの、危険度の程度に従って薬物療法の開始時期を早め、さらに厳重に管理するという基本方針は共通している。また,腎疾患や糖尿病合併例では大規模介入試験の結果からさらに降圧目標値は更に低値に設定されている。
A.生活習慣の是正
 これが最初の治療となる。
日本では食塩摂取過剰が問題視され、健康日本21など対策が講じられてきたが、近年はカロリー過多や運動不足なども大きな要因となっている。
*減量:
BMI27以上の肥満は昇圧と密接に関連し、肥満者では減量が降圧をもたらすことも明らかにされている。カロリー摂取制限は降圧のみならず、糖・脂質代謝の是正にも有効であり、更に動脈硬化の危険因子を総合的に改善できる。
日本肥満学会ではBMI26.4以上を肥満と定義していたが,最近BMI25.0以上を肥満とするようになった.高血圧がある場合は25未満を目標にすべきである.摂取エネルギーは標準体重(22×身長(m)2)×25kcal/日を一つの目安としてよい.
*減塩:
高血圧の約半数で降圧に有効である.本邦の食塩平均摂取量は漸減してきたが,昭和62年の11.7gを境に増大に転じ13g前後となっている.外食や加工食品に依拠する部分が増大した結果であり注意を要する.5g程度の減塩でもほぼ5mmHgの降圧が期待できるので,7g/日を目標とする.
*アルコール制限:
 過度の飲酒は昇圧を起こし,適度な節酒は2週ぐらいでも明らかな降圧をもたらす.エタノールで30ml,すなわち日本酒では1合,ビールなら大瓶1本,ウイスキーなら60ml,ワインなら300mlを目安とする.
*運動
 降圧に有効なのは有酸素的な等張運動,すなわち歩行,ジョギング,水泳,サイクリングなどで,重量挙げのような等尺運動は昇圧作用があるので避ける.運動強度は最大酸素消費量の4060%,具体的には心拍数で138-年齢/2ぐらいの運動を3060分持続し,これを週に3回以上行うと明らかに降圧する.
*禁煙:
 喫煙と血圧の関係はあまり明らかではないが,最近は喫煙の昇圧作用と禁煙の降圧効果の報告を少なからず認める.喫煙は心血管系疾患の重要な危険因子であり,高血圧を伴えばその危険度は相乗的に増加するので,是非禁煙を勧める。

B.薬物療法
 降圧薬は長時間作用型のものを低用量より開始し,降圧不十分であればその薬剤の増量も可能であるが,他の種類の薬剤を適切な組み合わせを考慮して併用するとおのおのの薬剤の副作用が軽減でき,かつ降圧効果が増強されるので好ましい場合が多い.
*老年者高血圧:
 老年者は一般的にレニン・アンジオテンシン系が低下した体液貯留型高血圧が多いことから利尿薬やCa拮抗薬の降圧効果が良好と考えられ,主に使用されてきた.ただし老年者は体液量の減少に対して調節力が弱く,圧受容体反射機能も低下しているため,利尿薬は少量にとどめる.一方,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)も加齢による降圧効果の減弱は認められず,臓器保護効果の面からも好ましい薬剤である.老年者では慢性閉塞性肺疾患,閉塞性動脈硬化症,徐脈や潜在性心不全などの合併が多く,β遮断薬は使用しにくい.
*脳血管障害合併例:
 急性期にみられる昇圧は,脳血流の減少を代償するための生体反応の要因が大きく,しかも急性期を過ぎると自然降圧するため原則的には降圧療法はしない.ただし,220130mmHg以上の血圧が持続したり,動脈瘤や腎不全などの合併では投薬する.アダラート⇒カプセルの内容の舌下は過度の降圧をきたし脳・心血管事故をひき起こす可能性があるので用いない.
 慢性期には中枢神経系への副作用がなく,脳血流減少のない薬剤を選択する.Ca拮抗薬は脳血流を増大し,痴呆を抑制するとの最近の報告からもよい適応であり,ACE阻害薬やα遮断薬も軽度ながら脳血流増大を示す.
3.腎疾患合併例 腎疾患合併例ではACE阻害薬が尿蛋白を減少させて腎保護作用を示すので第1選択薬である.ARBも同様の効果が期待できると考えられるが,両者とも血清クレアチニンが2mgdl以上では腎機能悪化や高K血症への注意が必要である.ACE阻害薬のなかでエースコール⇒とオドリック⇒が腎のみならず肝でも代謝されるので安全域が広い.腎機能障害例では水・Na排泄障害を示すので利尿薬を使用する.この際,サイアザイド系利尿薬は無効でループ利尿薬を用い,K保持性利尿薬は原則的には禁忌である.
 降圧目標値は尿蛋白排泄量が1日1g未満は13085mmHg以下,1g以上は12575mmHg以下であり,急激な降圧は腎機能を悪化させる可能性があるため緩徐な降圧を心がける.腎機能障害例は治療抵抗性であることが多く,この点からは降圧効果が強力で確実なCa拮抗薬もよい適応である.また,α遮断薬やβ遮断薬,交感神経中枢抑制薬も使用可能であり,ACE阻害薬を中心にした多剤併用で降圧目標値を目指す.
*糖尿病合併例:
 糖尿病合併例に関した大規模介入研究では,心血管疾患の一次予防についてACE阻害薬が有用であり,また糖尿病の発症率も抑制すると報告される.Ca拮抗薬も有用性が証明され,これらとα遮断薬はインスリン感受性改善効果もあり好ましい.ただし,糖尿病性神経症による起立性低血圧がある例ではα遮断薬は慎重に投与する.利尿薬とβ遮断薬はインスリン抵抗性を助長し耐糖能を悪化する可能性があるため好ましくない.降圧目標は13085mmHg以下とする.
*高脂血症合併例:
 利尿薬は総コレステロール,中性脂肪を増加させ,β遮断薬は中性脂肪を増加,HDL‐コレステロールを減少させるので好ましくない.α遮断薬は脂質改善効果があり,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARBは脂質代謝に悪影響はなくよい適応である.
*早朝高血圧: 覚醒前からの交感神経活性の上昇が早朝の昇圧に関与していると考えられる.したがって,α遮断薬もしくはαβ遮断薬の就寝前投与はよい適応である.
*妊婦: 催奇形性の報告されている,ACE阻害薬とARBは絶対禁忌であるが,他の薬剤は基本的には使用可能である.ただし,利尿薬が胎盤血流を減少させ,Ca拮抗薬が陣痛を減弱することを考慮に入れる.アルドメット⇒とαβ遮断薬,β遮断薬は比較的安全に使用できるので従来より汎用されている.


降圧薬
積極的な適応
禁忌
Ca拮抗薬
脳血管疾患後、狭心症、左室肥大、
糖尿病、高齢者
房室ブロック
ARB
脳血管疾患後、心不全、心筋梗塞後、左室肥大、腎障害、糖尿病、高齢者
妊娠、高K血症
両側腎動脈狭窄
ACE阻害薬
脳血管疾患後、心不全、心筋梗塞後、左室肥大、腎障害、糖尿病、高齢者
妊娠、高K血症
両側腎動脈狭窄
利尿薬
脳血管疾患後、心不全、腎不全、高齢者
痛風
βブロッカー
狭心症、心筋梗塞後、頻脈、心不全
喘息、房室ブロック、末梢循環障害
αブロッカー
脂質異常症、前立腺肥大
起立性高血圧

【経験した症例】

 肺炎のため入院となった歳男性。抗生剤投与により肺炎が改善するも、入院時より収縮期血圧160mmHg台の高血圧を認めていた。また0.5g/日の蛋白尿、Cr1.2mg/dlの腎機能障害を認めており、40歳代に高血圧を指摘されていたことから、長年の高血圧による腎硬化症があると考えられた。腎機能障害があることを考慮し、降圧剤としてARBが第一選択薬として挙げられ、アジルバ20mg/日の内服を開始し40mg/日まで増量した。しかしその後も血圧高値であったためCa blockerとしてアムロジン10mg/日を追加したところ収縮期血圧110mmHg台と安定した。


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