認知症について

【認知症】
[分類]
  障害部位
(1)皮質性:AD, FTLD
(2)
皮質下性:PSP, Huntington

  障害部位
(1)前方型:前頭葉・側頭葉精神症状・行動異常など:FTD
(2)後方型:頭頂葉・後頭葉視空間認知・記銘力など:AD, DLB

  年齢
(1)若年期:18-39
(2)初老期:40-64
(3)老年期:65-

[疫学]
有病率>10%

[認知機能(Cognitive function)とは]
1.記憶
(1)陳述記憶(declarative memory)
言葉にできる記憶
episode memory: 自身の体験。Ex:きのう何食べた
semantic memory: 辞書的記憶。 Ex: りんごとは何か

(2)非陳述記憶(non-declarative memory)
言葉にできない記憶
procedure memory: 自転車のこぎ方など
priming

*記憶の手順: 記銘(memory), 把持(retention), 想起(recall)

  把持:
(1)即時(immediate): すぐ
(2)近時(recent): 数分〜数日
(3)遠隔(remote): それ以降

[見当識(orientation)]
time, place, personを認識する能力。
様々な認知機能の複合で維持されている。
ADではtime→place→personの順番で障害される。

[高次脳機能(H.C.F)]
1. 失語
(1)原因
優位半球シルビウス裂周囲に障害が及ぶ認知症性疾患が原因となる。
→FTLD, PSP, CBD, AD, VaD
(2)原発性進行性失語症(Primary progressive aphasia: PPA)
認知症性疾患の病初期(2年以内)に失語が最も顕著な症状である疾患。
・病型
non-fluent/agrammatic type (非流暢・失文法型:NA)
統語(文法)と流暢性が障害される。FTLD-tauが多い。
semantic PPA type (意味型:Sem)
意味記憶障害を背景に言語理解障害が主体。FTLD-TDPが多い。
logopenic/phonological PAA type (ロゴペニック型:LP)
遅い発語・長文理解困難・復唱障害・音韻性錯語あるが文法・構音は保たれる。ADが多い。

2.失行
肢節運動失行・観念運動失行・観念性失行に分けられる。肢節運動失行はCBDの経過中に見られることが多い。

3.失認
ADでは視覚失認が生じやすい。

[認知症の症候]
1. 視空間認知機能障害
2. 遂行機能障害
金銭管理・服薬管理・買い物・調理・仕事・趣味など
スクリーニングとしてFAB, EXITがある。
3. 精神症状:アパシーが最も多く8割に認める。

[認知症の周辺症状:BPSD]
1. 幻覚・妄想
ADでは幻視・物盗られ妄想が多い。
DLBでは幻視の頻度が高く、妄想性誤認症候群が次ぐ。
非薬物療法薬物療法の順で行う。
2. 誤認妄想
カプグラ症候群:身近な人が他人にすり替わっていると言う妄想
フレゴリの錯覚:他人を身近な人と主張
重複記憶錯誤:同じ人物や場所が2つ以上存在
鏡現象:鏡に映った自分を他人と誤認
3. 徘徊
4. 不穏・興奮
5. 概日リズムの変化
6. うつ・意欲低下

[認知症の評価]
1. 神経心理検査
(1)MMSE
評価項目:見当識,遅延再生,計算,物品呼称,復唱,口頭指示,読字,書字,図形模写
カットオフ:23/30
AD:初期に記憶や見当識が障害され、徐々に失行症状を呈するようになる。
DLB:他の設問に比べて視覚認知機能の障害が目立つ。
(2)HDS-R
評価項目:見当識,遅延再生,視覚性記憶,計算,逆唱,語の流暢性(野菜)
カットオフ:20/30
FTLD:他の設問に比べて語の流暢性の障害が目立つ。
(3)FAB(Frontal Assessment Battery)
前頭葉全般のスクリーニング検査
評価項目:概念化,語の流暢性,運動プログラム,反応選択,反応抑制,把握行動抑制
(4)MoCA-J(Montreal Cognitive Assessment -Japan)
遂行機能障害の評価
VaDの評価に有用
(5)FAST
認知症における日常生活障害度に注目した分類。
MMSEHDSRとの対応もしている。
FAST(functional assessment staging)

2. 画像診断
(1)MRI
ADでは海馬・扁桃体など内側側頭葉の萎縮を来し、DLBでは比較的保たれる。
(2)SPECT
ADでは帯状回後部・楔前部から始まり、頭頂葉・側頭葉・前頭葉へと広がっていく。DLBでは一次視覚野を含む後頭葉の血流低下を認める。後頭葉の血流低下を用いると、感度は44-90%, 特異度は69-85%である。FTLDでは前頭葉皮質を中心とした血流低下を認める。PNFAでは左側頭優位、SDでは左側頭葉前方部〜前頭葉にかけて血流が低下する。
(3)MIBG心筋シンチグラフィ
DLBでは早期・後期ともに90%以上の患者でMIBGが低下する。DLBでの取り込み低下はPDよりも顕著で、H-Y 度でも取り込み低下は見られる。

3. 鑑別診断
鑑別:せん妄、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、脳炎、甲状腺機能異常症、肝障害、ビタミン欠乏症など
*せん妄:認知症との鑑別で最も必要である。認知症と比較すると急性の経過をたどり、症状は変動しやすい。原因としては薬剤性が最も多く、原因薬剤としてH2-blockerなどの抗潰瘍薬、抗不安薬、泌尿器科系薬剤、β遮断薬、抗ヒスタミン薬が多い。

[軽度認知障害:MCI(mild cognitive impairment)]
年齢・教育レベルによる基準と比較して認知機能障害を認めるものの、認知症には至っていない状態。
1.分類
(1)健忘型単一領域(aMCI-single domain):記名力障害のみが目立つ。
(2)健忘型複数領域(aMCI-multiple domain):複数の高次機能障害を認める。
(3)非健忘型単一領域(naMCI-single domain):単一高次脳機能障害。健忘なし。
(4)非健忘型複数領域(naMCI-multiple domain):健忘以外の複数高次脳機能障害。
aMCIの多くはADに移行する。記憶障害を主症状とする。
naMCIの多くはDLBまたはFTDに移行する。RBDや性格変化を認める。
2.検査
HDSR, MMSE, MoCA-J
MoCA-J視空間・遂行機能、命名、記憶、注意力、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、見当識からなり、MCIをスクリーニングする検査である。MoCA25点以下がMCIであり、感度80-100%、特異度50-87%である。MoCAMMSEよりもMCIの検出に優れる。
3.診断基準
(1)認知機能低下の訴えがある
(2)1つ以上の認知ドメインにおける障害
(3)日常生活は自立している
(4)認知症ではない
上記全てを満たした場合MCIと診断できる。
4.鑑別診断
せん妄・うつ病・代謝性疾患(甲状腺機能異常症・クッシング病・Vit欠乏症)
5.治療
コリンエステラーゼ阻害薬:エビデンスなし
リスク因子の除去:DM, HT, DL, うつ, 喫煙, 運動不足, 低い教育歴
定期的な運動と社会活動が認知機能障害に防御的に働くと言われている。

[AD]
臨床的に認知機能の低下を認め、アミロイドβタンパクの蓄積により病理的に大脳全体の萎縮、大脳皮質の老人斑(Drusen), 神経原線維変化(neurofibrillary tangle: NFT)を主徴とする疾患。
1.臨床症状
記憶障害・言語(健忘失語)・視空間認知・遂行機能障害など。episode memory (近時即時遠隔),semantic memory, procedureの順で障害される。
*非健忘型AD
Primary Logopenic Aphasia
PPAのうち、喚語(語想起)が障害されることでゆっくりとした発話になる。
2.検査
認知機能評価スケール:MMSE, HDSR, FAB
画像評価:MRI, SPECT
3.治療
(1)薬物療法
①ドネペジル(アリセプト)
全般臨床症状に対して軽度〜高度認知症で有意に改善。
3mg/dayから開始し、1-2週間で5mgup。最大10mg/day
肝機能障害・腎機能障害で投与制限なし。
副作用は食思不振・悪心などの消化器症状と不整脈。
②ガランタミン(レミニール)
軽度〜中等度の認知機能障害に対して。
8mg/dayから開始し、1ヶ月ごとに8mg増量。最大24mg/day
肝機能障害や腎機能障害がある場合はアリセプトを使ったほうが無難。
副作用は食思不振・悪心などの消化器症状。
ドネペジルより長期間の認知機能維持効果を認めている。
異常行動・脱抑制・不安・幻覚などのBPSDにも効果があると言われている。
③リバスチグミン(イクセロンパッチ・リバスタッチ)
軽度〜中等度の認知機能障害に対して。
貼付剤であり嚥下機能障害があっても使用可能。
4.5mg/dayから開始し、1ヶ月ごとに4.5mgずつ増量。最大18mg/day
ドネペジルやガランタミンより消化器商用が少ないが皮膚トラブルの可能性。
ADに対する認知機能改善効果としてはドネペジルより有意に高い。
幻覚・妄想などのBPSDにも有効である。
④メマンチン(メマリー)
中等度〜高度ADにおける認知症症状の抑制。
5mg/dayから開始し1週間ごとに5mgずつ増量。最大20mg/day
腎排泄であり腎機能障害がある場合には10mg/dayを維持量とする。
てんかんやけいれん発作を誘発する可能性がある。
攻撃性・異常行動などのBPSDにも効果がある。やや鎮静効果がある。
副作用としては傾眠がある。

[DLB]
注意や覚醒レベルの変動を伴う動揺性の認知機能障害・幻視・パーキンソニズム・レム睡眠行動異常・自律神経障害などを呈し、病理学的に中枢神経系にレヴィ小体が多発する疾患。
*パーキンソン病(PD)DLB
PDDLBともに中枢神経系にレヴィ小体が多発する疾患である。初発症状がパーキンソニズムか認知機能障害かの違いはあるが、症状が進行すると臨床・病理像ともに一致する。「認知機能障害がパーキンソニズムの出現から1年以内であればDLBとし、パーキンソニズムの出現から1年後以降に認知機能障害があればPDDとする」というone year ruleが採用されている。
1. 症状
ドパミン系・アセチルコリン系の障害に加え、アドレナリン系やセロトニン系の障害も加わることによって記憶障害は比較的軽度で、前頭葉機能障害、注意覚醒障害、視覚性認知、視空間認知障害が中心である。記憶障害としてはepisode memoryは比較的保たれ、視覚性記憶が障害される。これにパーキンソニズムを中心とした運動症状、自律神経症状が加わる。
2.治療
ADに準ずる。

[FTLD]
→前頭側頭葉に限局性萎縮を呈する例。

1.分類
(1) FTD: front-temporal dementia(前頭側頭型認知症)
人格障害・社会性の障害
(2) Semantic dementia(意味性認知症)
側頭葉前方の萎縮。意味記憶の障害。復唱可能だが言語の意味がわからない。
(3) PA: progressive aphasia(進行性失語)
表出性言語の障害
進行性失語症。ADの合併により認知機能低下を来たす。

2.FTLDの病理サブタイプ
(1)FTLD-tau(Pick)
ピック小体の存在で病理診断される。3リピートタウの蓄積。
平均年齢60歳。罹患期間は8−10年で通例家族歴はない。
臨床症状はFTD64%, PAや発語失行が21%SDは呈しにくい。
基底核・黒質・錐体路変性は軽度。
(2)FTLD-TDP
TDP-43陽性でタウ・シヌクレイン陰性。
病変は側頭葉優位が75%, 前頭葉・側頭葉同程度が25%
臨床症状はSD40%, FTD30%
80%に非対称性の運動症状(錐体路・錐体外路症状)が出現する。
(3)FTLD-FUS(BIBD, NIFD)
FUSの蓄積。多彩な症状を示す。一般染色ではBIBDNIFDの鑑別はできない。Neurofilamentとα-internexinの染色で区別する。

*タウ蛋白
微小管付随蛋白の一種。各種疾患の封入体の構成成分。
ADでは6種のアイソフォームが全て異常蓄積する。
Pick diseaseでは3リピートタウが蓄積する。
CBD, PSP, AGD(嗜銀顆粒性認知症)では4リピートタウが蓄積する。
*タウオパチー
タウ蛋白が異常蓄積する疾患群。AD,FTLD, CBD, PSP, AGD
TDP-43
HIV遺伝子のTARに結合する因子。神経細胞封入体(NCIs), 神経細胞核内封入体(NIIs),ALSの前角細胞内封入体で陽性。

  各病型での障害部位

3.疫学
dementiaにおいてはAD, DLBに次ぐ頻度である。AD:FTLDは約20:1
病理サブタイプの中ではFTLD-TDP30%, FTLD-tauCBDがそれぞれ15%PSP7%程度であり、ごく少数のBIBDNIFIDなどが加わる。

4.臨床症状
(1)行動障害型FTD(bv-FTD): 前頭葉障害がメイン。
脱抑制:衝動や感情を抑えることができなくなった状態。
無為・無関心:自発的な活動の減少。
他者への共感の欠如。
常同行動:特定の行為行動を繰り返す。
時刻表的生活:常同行動が日単位に及ぶもの。
滯続言語:同じ語句や同じ話を繰り返す。
食行動の変化:今までと異なる食事の嗜好。
病識の欠如:自らの病気に対する深刻さの欠如。
被影響性の亢進:他者の行動をまねる、書いてある文章を読み上げるなど。
認知機能障害:遂行機能障害を中心とし、記憶障害や視空間認知は保たれる。
(2)PNFA:優位半球シルビウス裂周囲の障害。
呼称・語想起の障害から始まり、音韻性錯語、復唱・書字・計算障害をきたす。
病初期には認知機能症は認めないが、顔面失行を伴うことが多い。
(3)Semantic Dementia:側頭葉の前方から底部にかけての障害。
語想起障害に加え、語理解障害を呈する。諺や生物への知識が障害され、ジェスチャー・人の顔も理解できなくなる。常同行動等の行動障害も出現する。
(4)FTD-MND
認知機能障害が先行し、半年から1年後に運動ニューロン障害が出現する。認知機能障害としてはbn-FTDに準ずる。運動ニューロン障害に関しては、球麻痺型が多く、強迫泣きや強迫笑いが見られる。下肢の筋力低下は軽度であることが多く、進行して呼吸不全に至った症例でも独歩可能なことがある。進行は比較的急速で診断から死亡までの平均期間は1.3年程度とされている。

5.病期分類
第Ⅰ期:発症から1-3年で人格障害や遂行機能障害が出現する。
第Ⅱ期:発症から3-6年で言語障害が出現。EEGで徐波化・画像所見も認める。
第Ⅲ期:発症から6-12年で疎通性はなく運動症状も認める。

6.検査
(1)神経心理検査:遂行機能障害や言語障害など病巣を反映した認知機能低下。
(2)模倣行為の有無
(3)画像検査:MRIなどの形態画像とSPECTなどの機能画像で評価する。
                    bvFTD,PNFA, SDでそれぞれの病変に一致した所見を呈する。
(4)血液検査:特異的な所見はない。

7.診断
bv-FTDの診断基準
FTDにおける感度はpossible86%, probable76%
Rascovskyの診断基準 (2011)

8.治療
現時点で有効な薬物治療は存在しない。
AD治療薬、抗うつ薬、抗精神病薬などを対症療法的に使用する。

9.経過
FTLD全体では発症から死亡までの平均期間は7-11年。
初診から死亡までの生存期間の中央値は3-4年と報告されている。

[Vascular dementia]
症状は様々。Registrationの障害はまれ。

[BPSD]
1. 症状
(1)幻覚・妄想:抗認知症薬・抗精神病薬・抑肝散
(2)不安・焦燥:抗認知症薬・抗精神病薬・抑肝散・抗不安薬・抗うつ薬
(3)うつ・アパシー:抗認知症薬・抑肝散・抗不安薬・抗うつ薬・脳循環改善薬
(4)睡眠障害:非BZP系睡眠薬・BZP系睡眠薬・抗うつ薬・メラトニンR刺激薬・非定型抗精神病薬・抑肝散
(5)多動・興奮:抗認知症薬・抗精神病薬・抑肝散・抗てんかん薬
(6)徘徊・脱抑制:dopamine agonist, BZPの減量・中止

2. 治療
(1)抗認知症薬
ChE阻害薬・メマンチンに効果があると言われている。
他の薬剤に比べて副作用も少なく第一選択である。

(2)非定型抗精神病薬
リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール
副作用として傾眠・錐体外路障害・転倒(歩行障害)など。
用量加減かそれ以下の量を単剤投与が原則である。
オランザピン・クエチアピンは糖尿病には禁忌である。

(3)定型抗精神病薬
ハロペリドール
錐体外路障害が非定型抗精神病薬より出現しやすいため注意が必要である。
0.5mg/dayから開始し注意深く増量する。

(4)抑肝散
副作用が比較的少なく、高齢者にも使いやすい。

(5)抗うつ薬
トラゾドン・ミアンセリンなどが用いられる。

(6)抗不安薬
短時間作用型のBZP系抗不安薬が用いられる。
有害事象は日中の傾眠・筋弛緩による転倒・脱抑制・認知機能障害の進行
中等度〜高度認知機能症があると有害事象が顕著であるため禁忌。

(7)脳循環代謝改善薬
ニセルゴリン。VaDのアパシーに効果的と言われる。

(8)抗てんかん薬

カルバマゼピンが興奮や暴力に対して有効である。

神経内科の勉強方 おすすめの教科書はこちら

研修医/内科医が読むべき本はこちら

コメント

このブログの人気の投稿

脳梗塞の分類 TOAST(ATBI, A to A, aortagenic, CE, ESUS, paradoxical, lacunar, BAD)

筋電図の読み方 改定2017

除皮質硬直と除脳硬直