アルツハイマー型認知症のガイドライン(AD)
[認知症の症候]
1. 視空間認知機能障害
2. 遂行機能障害
→金銭管理・服薬管理・買い物・調理・仕事・趣味など
スクリーニングとしてFAB, EXITがある。
3. 精神症状:アパシーが最も多く8割に認める。
[認知症の周辺症状:BPSD]
1. 幻覚・妄想
ADでは幻視・物盗られ妄想が多い。
DLBでは幻視の頻度が高く、妄想性誤認症候群が次ぐ。
非薬物療法→薬物療法の順で行う。
2. 誤認妄想
カプグラ症候群:身近な人が他人にすり替わっていると言う妄想
フレゴリの錯覚:他人を身近な人と主張
重複記憶錯誤:同じ人物や場所が2つ以上存在
鏡現象:鏡に映った自分を他人と誤認
3. 徘徊
4. 不穏・興奮
5. 概日リズムの変化
6. うつ・意欲低下
[認知症の評価]
1. 神経心理検査
(1)MMSE
評価項目:見当識,遅延再生,計算,物品呼称,復唱,口頭指示,読字,書字,図形模写
カットオフ:23/30
AD:初期に記憶や見当識が障害され、徐々に失行症状を呈するようになる。
DLB:他の設問に比べて視覚認知機能の障害が目立つ。
(2)HDS-R
評価項目:見当識,遅延再生,視覚性記憶,計算,逆唱,語の流暢性(野菜)
カットオフ:20/30
FTLD:他の設問に比べて語の流暢性の障害が目立つ。
(3)FAB(Frontal Assessment Battery)
前頭葉全般のスクリーニング検査
評価項目:概念化,語の流暢性,運動プログラム,反応選択,反応抑制,把握行動抑制
(4)MoCA-J(Montreal Cognitive Assessment -Japan)
遂行機能障害の評価
VaDの評価に有用
(5)FAST
認知症における日常生活障害度に注目した分類。
MMSEやHDSRとの対応もしている。
*FAST(functional assessment staging)
2. 画像診断
(1)MRI
ADでは海馬・扁桃体など内側側頭葉の萎縮を来し、DLBでは比較的保たれる。
(2)SPECT
ADでは帯状回後部・楔前部から始まり、頭頂葉・側頭葉・前頭葉へと広がっていく。DLBでは一次視覚野を含む後頭葉の血流低下を認める。後頭葉の血流低下を用いると、感度は44-90%, 特異度は69-85%である。FTLDでは前頭葉皮質を中心とした血流低下を認める。PNFAでは左側頭優位、SDでは左側頭葉前方部〜前頭葉にかけて血流が低下する。
(3)MIBG心筋シンチグラフィ
DLBでは早期・後期ともに90%以上の患者でMIBGが低下する。DLBでの取り込み低下はPDよりも顕著で、H-Y Ⅰ度でも取り込み低下は見られる。
3. 鑑別診断
鑑別:せん妄、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、脳炎、甲状腺機能異常症、肝障害、ビタミン欠乏症など
*せん妄:認知症との鑑別で最も必要である。認知症と比較すると急性の経過をたどり、症状は変動しやすい。原因としては薬剤性が最も多く、原因薬剤としてH2-blockerなどの抗潰瘍薬、抗不安薬、泌尿器科系薬剤、β遮断薬、抗ヒスタミン薬が多い。
[軽度認知障害:MCI(mild cognitive impairment)]
年齢・教育レベルによる基準と比較して認知機能障害を認めるものの、認知症には至っていない状態。
1.分類
(1)健忘型単一領域(aMCI-single domain):記名力障害のみが目立つ。
(2)健忘型複数領域(aMCI-multiple domain):複数の高次機能障害を認める。
(3)非健忘型単一領域(naMCI-single domain):単一高次脳機能障害。健忘なし。
(4)非健忘型複数領域(naMCI-multiple domain):健忘以外の複数高次脳機能障害。
aMCIの多くはADに移行する。記憶障害を主症状とする。
naMCIの多くはDLBまたはFTDに移行する。RBDや性格変化を認める。
2.検査
HDSR, MMSE, MoCA-J
*MoCA-Jは視空間・遂行機能、命名、記憶、注意力、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、見当識からなり、MCIをスクリーニングする検査である。MoCAは25点以下がMCIであり、感度80-100%、特異度50-87%である。MoCAはMMSEよりもMCIの検出に優れる。
3.診断基準
(1)認知機能低下の訴えがある
(2)1つ以上の認知ドメインにおける障害
(3)日常生活は自立している
(4)認知症ではない
上記全てを満たした場合MCIと診断できる。
4.鑑別診断
せん妄・うつ病・代謝性疾患(甲状腺機能異常症・クッシング病・Vit欠乏症)
5.治療
コリンエステラーゼ阻害薬:エビデンスなし
リスク因子の除去:DM, HT, DL, うつ, 喫煙, 運動不足, 低い教育歴
定期的な運動と社会活動が認知機能障害に防御的に働くと言われている。
[AD]
臨床的に認知機能の低下を認め、アミロイドβタンパクの蓄積により病理的に大脳全体の萎縮、大脳皮質の老人斑(Drusen), 神経原線維変化(neurofibrillary tangle: NFT)を主徴とする疾患。
1.臨床症状
記憶障害・言語(健忘失語)・視空間認知・遂行機能障害など。episode memory (近時→即時→遠隔),semantic memory, procedureの順で障害される。
*非健忘型AD
→Primary Logopenic Aphasia
PPAのうち、喚語(語想起)が障害されることでゆっくりとした発話になる。
2.検査
認知機能評価スケール:MMSE, HDSR, FAB
画像評価:MRI, SPECT
3.治療
(1)薬物療法
①ドネペジル(アリセプト)
全般臨床症状に対して軽度〜高度認知症で有意に改善。
3mg/dayから開始し、1-2週間で5mgにup。最大10mg/day。
肝機能障害・腎機能障害で投与制限なし。
副作用は食思不振・悪心などの消化器症状と不整脈。
②ガランタミン(レミニール)
軽度〜中等度の認知機能障害に対して。
8mg/dayから開始し、1ヶ月ごとに8mg増量。最大24mg/day。
肝機能障害や腎機能障害がある場合はアリセプトを使ったほうが無難。
副作用は食思不振・悪心などの消化器症状。
ドネペジルより長期間の認知機能維持効果を認めている。
異常行動・脱抑制・不安・幻覚などのBPSDにも効果があると言われている。
③リバスチグミン(イクセロンパッチ・リバスタッチ)
軽度〜中等度の認知機能障害に対して。
貼付剤であり嚥下機能障害があっても使用可能。
4.5mg/dayから開始し、1ヶ月ごとに4.5mgずつ増量。最大18mg/day。
ドネペジルやガランタミンより消化器商用が少ないが皮膚トラブルの可能性。
ADに対する認知機能改善効果としてはドネペジルより有意に高い。
幻覚・妄想などのBPSDにも有効である。
④メマンチン(メマリー)
中等度〜高度ADにおける認知症症状の抑制。
5mg/dayから開始し1週間ごとに5mgずつ増量。最大20mg/day。
腎排泄であり腎機能障害がある場合には10mg/dayを維持量とする。
てんかんやけいれん発作を誘発する可能性がある。
攻撃性・異常行動などのBPSDにも効果がある。やや鎮静効果がある。
副作用としては傾眠がある。
[BPSD]
1. 症状
(1)幻覚・妄想:抗認知症薬・抗精神病薬・抑肝散
(2)不安・焦燥:抗認知症薬・抗精神病薬・抑肝散・抗不安薬・抗うつ薬
(3)うつ・アパシー:抗認知症薬・抑肝散・抗不安薬・抗うつ薬・脳循環改善薬
(4)睡眠障害:非BZP系睡眠薬・BZP系睡眠薬・抗うつ薬・メラトニンR刺激薬・非定型抗精神病薬・抑肝散
(5)多動・興奮:抗認知症薬・抗精神病薬・抑肝散・抗てんかん薬
(6)徘徊・脱抑制:dopamine agonist, BZPの減量・中止
2. 治療
(1)抗認知症薬
ChE阻害薬・メマンチンに効果があると言われている。
他の薬剤に比べて副作用も少なく第一選択である。
(2)非定型抗精神病薬
リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール
副作用として傾眠・錐体外路障害・転倒(歩行障害)など。
用量加減かそれ以下の量を単剤投与が原則である。
オランザピン・クエチアピンは糖尿病には禁忌である。
(3)定型抗精神病薬
ハロペリドール
錐体外路障害が非定型抗精神病薬より出現しやすいため注意が必要である。
0.5mg/dayから開始し注意深く増量する。
(4)抑肝散
副作用が比較的少なく、高齢者にも使いやすい。
(5)抗うつ薬
トラゾドン・ミアンセリンなどが用いられる。
(6)抗不安薬
短時間作用型のBZP系抗不安薬が用いられる。
有害事象は日中の傾眠・筋弛緩による転倒・脱抑制・認知機能障害の進行
中等度〜高度認知機能症があると有害事象が顕著であるため禁忌。
(7)脳循環代謝改善薬
ニセルゴリン。VaDのアパシーに効果的と言われる。
(8)抗てんかん薬
カルバマゼピンが興奮や暴力に対して有効である。
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