[B6] 脳梗塞

【脳梗塞】
rt-PA適応:発症から4.5時間以内
→現状、適応となる症例は1割以下
  病院到着からrt-PA開始まで1時間以内が目標。

[診療の流れ]
primary ABC確保
SAMPLE聴取
一般身体所見
神経学的所見/NIHSS
血液検査
胸部レントゲン検査
心電図検査
頭部CT
頭部MRI
頚動脈エコー
診断

*発症時刻不明な場合は最後に症状がない事を確認した時刻を発症時刻とする

[分類]
1.      機序的分類
(1)血栓性:動脈硬化進行による閉塞orプラーク破綻による急性閉塞
(2)塞栓性:塞栓子が遠位血管に流入
(3)血行力学性:高度狭窄部が血流低下により虚血を来す

2.      臨床的分類
(1)アテローム性:粥腫による直接閉塞 or AtoA embolism
(2)心原性脳塞栓症: 多くはafによる
(3)ラクナ梗塞: 細動脈硬化に起因する1.5cm以下の穿通枝領域の小梗塞
(4)BAD: 穿通枝起始部の動脈硬化により進行性脳梗塞
(5)TIA: 脳梗塞を伴わない一過性の脳虚血


[Scale]
1.      NIHSS
急性期脳梗塞の評価scale



*人形の眼現象(OCR):頭を動かした時眼が常に正中位。脳幹障害。*意識障害があり、眼球運動見れない時は人形の眼現象を見る。
roving eye movement:眼球がゆっくり水平に動く。脳幹機能保たれている。
Ocular bobbing:間欠的に下転しゆっくり正中に戻る。

2.      mRS (modified Rankin Scale)

3.      Brunnstrom stage
脳卒中における運動麻痺回復過程の評価scale
上肢・四肢・体幹/下肢で評価基準が異なる。
  連合反応:体の一部を強く動かすと麻痺部が少し動く
  共同運動:可動時に付随する筋肉が動く。
  分離運動:それぞれの関節が分離して動く。

[診察]
1.      意識 (consciousness)
清明 (alert)
不鮮明 (confusion) 
傾眠 (somnolence):従命反応あるが刺激がないと寝てしまう。
昏迷 (stupor) :自発運動・疼痛刺激に対する逃避あり。従命反応微妙。
半昏睡 (semicoma):従命反応・自発運動なし。疼痛刺激に対する逃避あり。
昏睡 (coma):自発運動・疼痛刺激に対する逃避・従命反応なし。

せん妄 (delirium): 意識変容

2.      JCS

3.      GCS
*除脳硬直
中脳赤核以下(中脳・橋)の両側の障害による。
四肢は異常伸展。

*除皮質硬直
大脳皮質の障害により四肢が異常伸展。
上肢屈曲・下肢伸展の肢位


[画像診断]
1.    CT
Early CT sign: 超急性期に認められる微細な早期虚血性変化
→レンズ核・島皮質・脳溝の消失、皮髄境界の不明瞭化
ASPECTS: 早期虚血性変化の半定量的評価方法

ASPECTS <7pts >1/3 MCAとされる。


2.    MRI
DWIは早期虚血性変化を鋭敏に描出する。
ASPECTS-DWICTよりも正確である。

FLAIRは発症34.5時間以降に高信号を示す。
DWI high, FLAIR lowの領域は急性期梗塞巣を示唆しt-PA有用性高い。

T*は簡便なシークエンスで短時間で撮影可能。
他の撮影条件では検出できないmicrobleedsも描出され、有用性高い。
Susceptibility vessel sign: T2*で動脈閉塞部位に一致してlowを認める。

MRAは閉塞動脈を直接描出する。

3.    頚動脈エコー
病型診断に用いる。
動脈硬化の程度は内中膜複合体(IMC)の厚さ(IMT)で評価する。
・計測項目
(1)  max IMT: ICA, Bif, CCAで最大のIMTを採用する。
(2)  plaqueの表面: 平滑(smooth), 不整(irregular), 潰瘍(ulcer)
(3)  内部性状: 均一or不均一 x 低輝度/等輝度/高輝度

  ICA: 内頚動脈
  Bulbus (Bif) :頚動脈球部
  CCA: 総頚動脈

4.    心エコー
塞栓源検索に用いる。
心房細動患者では左心房内(特に)左心耳に血栓形成されやすい。

[血液検査]
脳梗塞におけるrisk factorの検索や鑑別診断に用いる。

  必須項目
血算:WBC, RBC, Hb, Hct, Plt
凝固:PT, APTT, FDP, DD, SF, Fib, PS, PC, AT
生化:TP, Alb ,肝機能, 腎機能, LDH, CK, BS, chol ,TG ,CRP ,電解質
その他:赤沈

  鑑別のための項目
(1)   ANCA関連血管炎:ANCA, ESR, CRP,
(2)   APS: APTT, IgG抗カルジオリピン抗体, STS(偽陽性)
(3)   SLE: DNA抗体, 補体, Sm抗体, 抗リボソームP抗体
(4)   PS, PC欠損症
  CNSループスでは抗DNA抗体, 補体は活動性の指標にならない。

[静注血栓溶解療法]
適応基準
(1)発症から4.5時間以内
(2)既往歴:    1ヶ月以内の脳梗塞、3ヶ月以内の頭部手術
3週間以内の出血性病変、2週間以内の外傷がない。
(3)所見:        SAH, 解離, 出血なし
降圧後BP>185/110, 重篤な肝障害、急性膵炎なし。
(4)血液検査:   血糖異常なし、Plt>10
(5)凝固系:    INR<1.7, APTT< x1.5
(6)画像:        広汎な早期虚血性変化なし、正中構造の偏位なし。
慎重投与
(7)81歳異常
(8)NIHSS>26pts
  ASPECTS <7pts >1/3 MCAとされる。
適応症例にはアルテプラーゼ0.6mg/kg10%を急速投与、残りを1hriv
投与1時間後までは15分毎、7時間後までは30分毎、24時間後までは1時間毎にNIHSS評価を行う。
投与開始後24時間以内は血圧180/105以下を保つように管理する。
降圧薬はニカルジピン(ペルジピン)、ジルチアゼム(ヘルベッサー)を用いる。

[急性期治療]
  t-PA24時間は抗凝固・抗血小板治療は行わない。

(1)抗血小板療法
アテローム性脳梗塞、ラクナ梗塞、TIAでは抗血小板薬を投与する。
基本はアスピリン 200mg
  アスピリンは即効性あり。30分で効果発現。
  バイアスピリンは腸溶錠であり吸収早めるために噛み砕く。

プラビックス:脳梗塞に対するプラビックス単剤のエビデンスなし。
                   効果発現まで2−3日要する。
                   Loading doseとして初回は300mg(4T)使用。
プレタール:プレタール200mg投与で効果・副作用ともに非劣勢
  併用用法:有効性に関しては有意差なし。有害事象は優位に多い。
  但し、3週間のみのDAPTは早期再発を優位に抑制した。

  etiology unknownに対してもアスピリン 200mg/day投与する。

(2)抗凝固療法
未分画ヘパリン:再発抑制、頭蓋内出血増加で総死亡率変わらず。
低分子ヘパリン:再発抑制、頭蓋内出血増加で総死亡率変わらず。
アルガトロバン(スロンノン):有効性に対するエビデンスなし。

(3)脳保護療法
エダラボン(ラジカット®):フリーラジカルスカベンジャー
発症24時間以内の脳梗塞に対して。130mg 朝夕2回。2週間まで。
脳梗塞の病型による治療効果の差はない。副作用は腎不全。
重症脳梗塞や軽症ラクナ梗塞では効果少ない。


(4)抗浮腫薬
広汎な浮腫に対するグリセオールにはエビデンスがある。
1回200-300ml 1-2/ 2時間かけて。重症例では3-4/
副作用:心不全,溶血による尿潜血+,脱水,腎不全,耐糖能異常,Na
期間:脳浮腫のピークは発症後3-5日。2週間で消失。
投与期間は2週間を目安とし、軽症例では減らす。
ラクナ梗塞では脳浮腫少ないため少量・短期間にする。

マンニトール・ステロイドにはエビデンスなし。

(5)スタチン
発症前からスタチンを内服していた患者では継続が推奨される。

(6)降圧薬
脳梗塞急性期でt-PA適応ではBP<185/110でコントロールする。
投与開始後24時間はBP <180/105でコントロールする。
t-PA適応でない場合、BP>220/120を超える場合、前値の85%まで降圧する。
それ以外で降圧は推奨されない。

使用する薬剤:ペルジピン、ヘルベッサー、ミリスロール
  ペルジピン 2mg shot 10mg/A x2 原液でシリンジポンプ 2ml/hrで開始。

(7)ステロイド
脳梗塞急性期のステロイド大量投与は大規模臨床試験により有効性否定された。

[呼吸管理]
舌根沈下によりAirwayの障害ある場合は気管内挿管。
明らかな低酸素血症ある場合はO2投与。
SpO2>95%を目安にコントロール

[モニター]
心原性脳塞栓症、etiology unknownの脳梗塞ではafの合併の可能性が高いため2−3日は心電図モニター必要。
<38℃になる様解熱鎮痛剤を使う

[血糖]
急性期(3日以内)にはBS 140-180でコントロール。

[安静度]
発症後24時間は症状安静・ベッドアップ禁。
ただし体位変換・他動的関節可動域訓練は行なってよい。

[栄養]
発症後24時間は経口摂取禁止。輸液。
  低張液では脳浮腫を来すため等張液を用いる。

発症24時間後に食事摂取開始。
  球麻痺症状ある場合は嚥下機能評価してから。

[排泄]
意識障害あり→バルーン挿入
意識障害なし→自尿

  浣腸は血圧上昇させるため禁忌

[合併症]
(1)出血性梗塞
急性期に神経所見の悪化を認めた場合は必ずCT再検する。

(2)消化管出血
急性期(2週間程度)は消化管出血予防目的にPPIを内服。
抗血小板薬内服時にも併用する。

(3)Vascular dementia
認知症治療薬への反応性はADに比べて悪い。

(4)Epilepsy
脳梗塞急性期のseizureはまれ。
Onset seizure含めた痙攣を認めた場合には
脳静脈洞血栓症、皮質静脈血栓症、MELASなどを疑う。

Post-stroke epilepsy
-early onset (発症から14日以内)
-late onset (発症から14日以上)
通常のepilepsyと同様にまずはanti-seizure drugでの鎮痙。
再発繰り返す場合には部分発作に対してCBZ, LEV, ZNS, LTGなど。

(5)中枢性脳卒中後疼痛 (CPSP)
主に視床梗塞で生じる。 (視床後外側腹側核: VPL)
一般に難治性。
治療:アミトリプチン(トリプタノール)、カルバマゼピン(テグレトール)、ラモトリギン(ラミクタール)、プレガバリン(リリカ)

(6)Vascular Parkinsonism
抗パーキンソン病薬への反応性はPDに比べて悪い。

(7)痙縮
現在のところ有効な治療法はない。

[維持療法]
脳梗塞の再発率は年間4-6%
特に、アテローム性・心原性脳塞栓症では初発から1年間は再発率10%

(1)高血圧
140/90mmHg以下を目標とする。
降圧薬としてはCa-b, ACEI, ARBが推奨される。

(2)DM
DM controlが脳梗塞の再発率を減少させるというエビデンスはない。
通常のDM治療に従う。

(3)DL
特にアテローム血栓性梗塞ではLDL-C<120mg/dl未満を目標とする。
スタチンを用いる。EPA製剤の併用が再発予防に有効である。


(4)抗血小板療法
  アスピリン(アスピリン・バイアスピリン)
高容量と低容量で再発予防に有意差なし。
再発予防には81-100mg/day
副作用として脳出血。特にラクナ梗塞。
ラクナ梗塞では再発予防としてプラビックス・プレタールが推奨。
また、消化管潰瘍のリスクありPPIの併用。

  シロスタゾール(プレタール)
PDE阻害薬。
ラクナ梗塞の再発にも有効である。
血管拡張作用を有し、副作用として頭痛・動悸。
HRを上昇させるため心不全には禁忌。
100mg/dayから開始し、200mg/dayを維持量とする。
アテローム性動脈硬化抑制作用も知られている。

  クロピドグレル(プラビックス)
アスピリンよりもやや高い再発予防効果。
プラビックス(75) 1T1xが基本。
出血リスク、高齢者、低体重者では50mgから開始する。
効果発現まで2-3日要する。

  DAPT
アスピリン+プラビックスのDAPTは急性期の再発予防に有効である。
慢性期には出血リスクが増大するため推奨されない。

(5)抗凝固療法
  ワーファリン: PT-INR2-3control
→高齢者ではINR 1.5-2.5control

  NOAC (エリキュース・リクシアナ・イグザレルト)



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