[B6] 重症筋無力症 (MG)ガイドライン
【重症筋無力症:MG】
[病因]
抗Ach-R抗体の生産
*
胸腺は抗AchR抗体の生産に関与していることから治療標的臓器となる。
*
抗AchR抗体が検出されないSeronegative MGの病因は明らかでない。
休暇
[疫学]
人口10万人あたり5.1人
男女比 1:1.85
若年層では眼筋型が、中年層では全身型が多い。
胸腺腫合併は女性20%,男性32%
Seronegative MGは23.9%を占める。
[症状]
運動の反復に伴う骨格筋の筋力低下(易疲労性)
急速により改善し、夕方に症状が変動する(日内変動)
日によって症状が変動する(日差変動)
初発症状としては眼瞼下垂や眼球運動障害・複視など眼症状が多い。
四肢筋力低下は近位筋優位であり、嚥下機能障害・構音障害・呼吸障害を来す。
[診断]
重症筋無力症の診断基準(免疫性神経疾患に関する調査研究班)
1.
自覚症状
(1)眼瞼下垂 (2)複視 (3)四肢筋力低下 (4)嚥下困難 (5)言語障害 (6)呼吸困難
(7)易疲労性 (8)症状の日内変動
2.
理学所見
(1)眼瞼下垂 (2)眼球運動障害 (3)顔面筋筋力低下 (4) 頸筋筋力低下
(5)四肢・体幹筋力低下 (6)嚥下障害 (7)構音障害 (8)呼吸困難
(9)易疲労性・休息での回復 (10)症状の日内変動
3.
検査所見
(1)テンシロンテスト陽性(症状軽快)
(2)Harvey-Masland Test
陽性 (waning現象)
(3)抗AchR抗体陽性
definite
→自覚症状1つ以上+理学所見(1)-(8)から1つ以上と(9) (10)+検査1つ以上
probable
→自覚症状1つ以上+理学所見(1)-(8)から1つ以上と(9) (10)+検査は全て陰性
[鑑別診断]
Lambert-Eaton
syndrome, 筋ジストロフィー, PM/DM, 周期性四肢麻痺
甲状腺機能亢進症, ミトコンドリアミオパチー, PSP, GBS/Fisher syndrome
Tolosa-Hunt
syndrome, 脳腫瘍, 脳血管障害, 脳炎, Wernicke脳症
DM microangiopathy,
MS, サルコイドーシス など
[評価スケール]
1. Osserman分類
Ⅰ:眼筋型(ocular form) 眼瞼下垂・複視のみ
ⅡA:軽症全身型(mild
generalized) 四肢の易疲労性。抗ChE薬へよく反応。
ⅡB:中等全身型(moderate
generalized) 抗ChE薬の反応不十分。クリーゼなし
Ⅲ:急性劇場型(acute
fulminating) 急性全身症状進行。呼吸困難・クリーゼ。
Ⅳ:晩期重症型(late
severe) ⅠorⅡで発症し2年以内にⅢに至るもの。
2.MGFA clinical
classification
ClassⅠ 眼筋型:眼筋のみに症状が限局
ClassⅡa 四肢体幹>口腔・咽頭・呼吸筋の軽度筋力低下
ClassⅡb 四肢体幹<口腔・咽頭・呼吸筋の軽度筋力低下
ClassⅢa 四肢体幹>口腔・咽頭・呼吸筋の中等度筋力低下
ClassⅢb 四肢体幹<口腔・咽頭・呼吸筋の中等度筋力低下
ClassⅣa 四肢体幹>口腔・咽頭・呼吸筋の高度筋力低下
ClassⅣb 四肢体幹<口腔・咽頭・呼吸筋の高度筋力低下
ClassⅤ 挿管管理
3.Quantitive MG
Score for Disease Severity : QMG score
4.ADL score
0 症状なし
1 軽微な症状で日常生活に支障なし
2 中等度の症状で日常生活に支障が出始める
4 身の回りのことがなんとか可能。構音・嚥下障害を認めることが多い。
5 歩行不可能
6 人工呼吸器が必要
1. 抗コリンエステラーゼ阻害薬
内服:メスチノン・ウブレチド・マイテラーゼ・ワゴスチグミン
静注:ワゴスチグミン・アンチレクス
作用時間が短いメスチノンが最も使いやすい。
メスチノン(60) 1T1xで開始し、3T3xまで増量可能である。
副作用は腹痛・下痢・嘔吐・発汗などムスカリン作用。過剰投与によりクリーゼ。
副作用予防には硫酸アトロピン(0.4-1.5mg)を併用することがある。
長期罹患や重症例では効き目が弱いことがありマイテラーゼやウブレチドを用いる。
ステロイドの併用により効果減弱する。
2.胸腺摘出術
胸腺除去から効果発現までには6か月-3年を要する。
(1)胸腺腫重症筋無力症
標準的治療である。
(2)非胸腺腫重症筋無力症
現時点では非胸腺腫重症筋無力症に対して胸腺摘出術が有効であるという明確なevidenceはない。しかし、臨床的には全身型重症筋無力症において胸腺摘出は有効な治療手段とされている。有害事象として死亡率は1%以下で、原因はクリーゼに伴う急性呼吸不全・感染症・神経損傷などである。
3.ステロイド
ステロイド投与による改善率は64-100%と高い報告がある。
導入時期に関しての一定の見解は得られていない。
胸腺除去から効果発現までには6か月-3年を要することから重症例では術前からの導入が有効である可能性がある。胸腺除去術後に改善を得られない場合に導入するという方法もある。軽症MGではステロイドを導入せずに胸腺除去を行うのが一般的である。
*
ステロイドパルス
mPSL 1000,g/day
3day 1-3クール
急性増悪期に用いることが多く、2-3クールで改善を得ることが多い。
4.その他の免疫抑制剤
ステロイド抵抗性あるいはステロイドの副作用のため使用できない患者に対して。
国内で保険適応されているのはプログラフのみ。
イムラン・サンデイミュンはエビデンスレベル1bと有効性が示されている。
(1)プログラフ(タクロリムス:FK506)
胸腺摘除術後の治療においてステロイド抵抗性/ステロイドの副作用のため使用できない全身型MGに対して保険適応がある。ヘルパーT細胞を抑制することでB細胞での抗体生産を抑制する。効果発現までは平均2-4週間と比較的短期間である。
・プログラフ3mg 1T1x 夕食後 副作用:腎障害・耐糖能異常
トラフ値(投与12時間後)を20ng/ml以下に保つ。
(2)イムラン(アザチオプリン:AZP)
ステロイド抵抗性/ステロイドの副作用のため使用できない全身型MGに対して米国で用いられるが、国内での保険適応はない。Tリンパ球を抑制することで間接的にリンパ球依存性のBリンパ球による抗AchR抗体産生を抑制する。
効果発現まで数ヶ月〜最大で1-2年を要する。
・
イムラン 50mg/dayから開始し7days毎に25-50mgずつ増量する。
通常維持量は2-3mg/kg/day
副作用:感染症、血球減少。催奇形性のため妊婦には禁忌である。
(3)サンディミュン(シクロスポリン:CYA)
ステロイド抵抗性/ステロイドの副作用のため使用できない全身型MGに対して用いられるが、国内での保険適応はない。活性型ヘルパーT細胞を抑制することで抗体生産B細胞を抑制する。効果発現までは約1-2か月と比較的早い。
・
サンディミュン 5mg/kg/day 2回に分けて。トラフ値を100-200ng/mlに保つ。
トラフ値が<100ng/mlであれば3-4週毎に1-2mg/kg/dayずつ増量する。
副作用:腎毒性 高血圧
[血液浄化療法]
γグロブリン分画に存在する抗AchR抗体の除去を目的とする。
現在は抗AchR抗体を特異的に除去する免疫吸着法(IA)が行なわれている。
・
免疫吸着法(IA)
血流速度70-80ml/minで1日2300-2500mlの処理が一般的である。
抗体除去効果は一時的であり、急性増悪期に他の根治療法と併用する必要がある。
[免疫グロブリン大量療法 : IvIg]
作用機序は明らかではない。
血漿交換とほぼ同等の効果が得られるとの報告があるが、有意差は明らかでない。
IvIg 400mg/kg
5days
*
但し、日本では保険適応ではない。
副作用:通常5%以下。アナフィラキシー症状・微熱・悪寒・頭痛。
→抗ヒスタミン薬・ステロイドで対応する。
[各論]
・
成人眼筋型MG
生涯通じて眼症状のみは15%程度。
約80%は2年以内に全身型へ移行する。
約10-30%は自然軽快するとの報告がある。
治療としては抗ChE阻害薬またはステロイドが用いられる。
*メスチノン 1T1xから開始し3T3xまで
*PSL 10mg隔日 効果に応じて50mg/隔日まで増量
AZPをステロイドに併用すると治療効果が高いとの報告がある。
胸腺摘除術の効果には一定の見解がなく、治療抵抗や全身型移行に施行を検討。
・
成人全身型MG
胸腺腫のうむにかかわらず胸腺摘除術が推奨される。
術前の状態不安定は術後増悪のリスクである。
術前管理には抗ChE阻害薬や血漿交換を用いる。
術前のステロイドに関しては一定見解なく、外科との相談が必要。
術後、胸腺摘除術の効果発現まあでは数ヶ月から数年を要する。
それまでの期間はステロイドによる治療を行うことが一般的。
*
PSL
1mg/kg/day 2-3か月。その後5mg/月づつ減量。
ステロイド抵抗性または使用困難な場合には他の免疫抑制剤を苦慮する。
・
小児MG
小児においては胸腺摘除術似寄り発育阻害・免疫機能異常の可能性があり消極的である。
11歳未満ではまずChE阻害薬を投与し、効果不十分な場合にはPSLを試す。
*
PSL
1-2mg/kg/隔日
効果不十分な場合にはその他の免疫抑制剤(タクロリムス)を検討する。
重症例ではPE,IvIgで状態安定させたのち胸腺摘除術を施行する。
・
Sero-negative
MG
血清AchR抗体陰性のMG。眼型の約50%, 全身型の約20%で認める。
(1)その他の自己抗体が原因→sero-negative MGの約70%で抗MuSK抗体陽性。
(2)検出感度以下→胸腺腫を伴うseronegativeMGでは抗MuSK抗体も陰性。
一般的なMGの治療に準ずるが、胸腺摘除術に関する一定の見解はない。
[重症筋無力症クリーゼ]
重症筋無力症クリーゼ:嚥下障害・呼吸障害などの球麻痺症状が急激に増悪し、全身の筋力低下・呼吸不全に陥った状態。MG患者の10-15%で来すとされている。
・
MGの増悪による筋無力症クリーゼ
・
ChE作用過剰によるコリン作動性クリーゼ
両者の鑑別は困難であり、しばしば混在する。治療は同一である。
誘因:感染・過労・ChE阻害薬の増量・ステロイドの急激な減量・禁忌薬使用・手術
*
最も多い原因は感染である。
治療:気道確保/呼吸管理・ChE薬の中止・誘因の除去・血液浄化療法
*
血液浄化療法が施行困難な場合にはIvIgを施行する。
*
血液浄化療法により症状がコントロールされ、感染がなければステロイドパルス。
急性期後の治療としてはステロイドを通常量で加療する。
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