[B6] 多発性硬化症/視神経脊髄炎 (MS/NMO)

【多発性硬化症/視神経脊髄炎】
[概要]
中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患
時間的・空間的多発を特徴とする。

[原因]
現時点では原因不明。
自己免疫機序を介した炎症が考えられている。
視神経脊髄炎(NMO)では抗AQP4抗体の関与が示唆されている。

[症状]
病変部位により様々な症状を呈する。
視力障害、複視、小脳失調、四肢麻痺、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、
有痛性強直性けいれんなど
  Uhthoff徴候(ウートフ徴候)
体温の上昇によって神経症状が悪化し、体温の低下により元にもどる。

[画像所見]
好発部位:脳室周囲白質、脳梁、皮質下白質、視神経、脳幹、小脳、頸髄
その他皮質や中心灰白質などどこにも病変を生じうる。
T2WI HIAを呈する。T1WIではISOLIA, DWIHIAを呈することがある。
(1)  ovoid lesion
側脳室壁に対して垂直な卵円形〜線形の病変。特異度は低い。
(2)  callosal-septal interface lesion
側脳室壁から垂直方向に広がる脳梁内病変。
脳梁の血管性病変は頻度が低く、感度・特異度ともに高い。
(3)  ring enhancement / open ring sign
疾患活動性が高い状態であることを示唆する。BBBの破綻による。
灰白質に接した部分が途切れる→open ring sign
(4)  視神経炎
STIR, T2-fat satで高信号。活動期には造影効果を示す。
(5)  脊髄病変/long spinal cord lesion
3椎体以上の病変はNMOを示唆する。
[診断]
1.      再発寛解型MSの診断基準
(1)2つ以上の臨床所見やVEPMRIに一致する発作が2回以上ある。
(2)臨床所見に一致する発作に加え、MRI上画像上時間的/空間的多発を認める。
MRIにおける時間的多発の証明
無症候性のGd造影病変と非造影病変の存在。
または2回撮影し、新規無症候性のT2 or Gd造影病変を認める。
MRIにおける空間的多発の証明
MSの好発部位のうち2つ以上にT2HIAを認める。
造影効果の有無は問わない。
上記(1),(2)のいずれかを満たす。
2.      一次性進行性MSの診断基準
1年間の病状の進行に加え、以下の3つのうち2つ以上を満たす。
(1)  脳内MS好発部位に1個以上のT2HIAを認める。(造影の有無は問わない)
(2)  脊髄に2個以上のT2HIAを認める。(造影の有無は問わない)
(3)  髄液検査でオリゴクローナルバンド and/or IgG index上昇

3.      二次進行型MS
再発寛解型の内、明かな再発なく症状が進行。

4.      視神経脊髄炎の診断基準
視神経炎・急性脊髄炎に加え
(1)  3椎体以上のMRI T2HIA(long spinal cord lesion)
(2)  Partyの基準を満たさない
(3)  AQP4抗体陽性
うち2つ以上満たした場合Definite NMO
  AQP4抗体:感度60%(SRL:ELISA), 80%(東北大学:CBA)
  NMO spectrum disorder(NMOSD)AQP4抗体陽性で視神経炎or脊髄炎。
  Seronegative NMOSD:臨床的にNMOSDが疑われるが、抗AQP4抗体陰性。
MOG抗体がしばしば陽性である。
  AQP4抗体、抗MOG抗体は東北大学で測定可能。


5.      Balo disease (Balo同心円硬化症)
病理またはMRIにて同心円状病巣を確認
  発作は、24時間以上持続し、発熱や感染症がない時に見られることが必要
  独立した発作と認めるには1ヶ月以上の間隔が必要。
  MSの好発部位:脳室周囲・皮質直下・テント下・脊髄
  Partyの基準:脳内に4個以上の病変or3つの病変(うち1つは脳室周囲)

[重症度分類]
(1)  EDSS
(2)  FS
(3)  網膜色素変性症の重症度分類
Ⅰ:矯正視力0.7以上かつ視野狭窄なし
Ⅱ:矯正視力0.7以上かつ視野狭窄あり
Ⅲ:矯正視力0.2以上0.7未満
Ⅳ:矯正視力0.2未満
  矯正視力・視野ともに良好な眼の測定値を採用
  視野狭窄あり:中心の残存視野がゴールドマン1-4指標で20度以内

[治療]
1.      急性期治療
ステロイドパルス療法
血液浄化療法
リハビリテーション
  AQP4抗体陽性例では血液浄化療法が有効なことが多い。

2.      再発予防
(1)IFN-β
ベタフェロン・アボネックス→注射製剤
二次性進行型MS/再発寛解型MSの再発予防には第一選択である。(Grade A)
一次進行型MSにはエビデンスなし。
維持量として8単位/隔日皮下注or 6単位/週一筋注のどちらかが推奨。
2単位から開始して1週間ごとに2単位ずつ増量する。
副作用:
①インフルエンザ様症状:80%に出現。アセトアミノフェンが有効。
3ヶ月以降は10%まで発現率が低下する。
②注射部位反応:80%に出現。皮下注で多い。
③白血球低下、肝酵素上昇
④うつ病、月経異常
膠原病や甲状腺機能異常を伴う場合には悪化の可能性があり推奨されない。
AQP4抗体陽性やlong spinal cord lesionを示す例は悪化の可能性があり推奨されない。

(2)フィンゴモリド
イムセラ・ジレニア→経口製剤
再発寛解型MSの再発予防に有効である。(Grade A)
フィンゴリモドとして0.5mg1T1x経口投与。
進行型MSや抗AQP4抗体陽性、long spinal cord lesionでは推奨されない。
0.5mg/dayと比べ1.25mg/dayでは副作用の発現率が多く推奨されない。
米国においてはMSの再発予防において第一選択。本邦,欧州では第二選択。
副作用:
   徐脈、房室ブロック、突然死
約5%で徐脈出現。11例で死亡が確認。初回投与時のモニタリング必要。
   リンパ球減少・感染症
投与前に水痘・帯状疱疹の予防接種・感染の有無を確認する。
リンパ球数<200で一時中止、2週間後以降に>600で再開検討する。
フィンゴリモドはメモリーT細胞には細胞しないため既感染症には影響ない。
但し、フィンゴモリド投与後にPML発症例あり、注意が必要。
   黄斑浮腫
発現率0.2%, 多くは投与4ヶ月後までに認める。
本剤投与前及び投与1,3,6か月後に眼科的検査を行う。
その後も半年に1回の定期受診が推奨される。
   肝機能障害
約30%に認める。肝機能障害を認めた場合には速やかに中止する。
禁忌:class/Ⅲの抗不整脈薬内服中、妊婦、授乳中
  フィンゴリモド初回投与時のモニタリング
投与開始後6時間はバイタルサインの観察。
初回投与前・投与6時間後に12誘導心電図の測定。
投与24時間後まではモニター管理とする。
不整脈・虚血性心疾患・心不全の既往がある場合には特に注意が必要。
退院可能基準:HR>45(入院時の80%以上)かつ投与6時間後よりも高値であり、徐脈性不整脈に伴うめまい、動悸などの症状を認めない場合退院可能。

(3)アザチオプリン/シクロフォスファミド
通常型MSIFNBやフィンゴモリド使用不可能な例に対して使用しても良いが、効果は限定的で効果発現まで数年を要する。(Grade B)
NMOに対しても使用可能だが保険適応はない。(Grade C)

(4)IvIg/ MTX
推奨されない(Grade C)

  再発因子:ストレス、疲労、感染
  long spinal cord lesionを除外しても6%は抗AQP4抗体陽性であり、投与前に抗AQP4抗体を検査することが推奨される。

[予後]
再発寛解を繰り返す。
視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害が残りADLが低下することも少なくない。
NMOではより重度の障害が残りやすい。


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